HATRAによる「ここのがっこう」での3Dデザイン講座、CLOが切り拓くファッションデザインの可能性
ファッション業界において大きな注目を集めるトピックのひとつが、3Dデザインの導入。最近ではTommy Hilfigerが全プロセス3D化の構想を発表し、大きなインパクトを与えた。その一方で3Dデザインの利点は、実サンプルの製作の削減によるサステナブルな文脈、バーチャル試着などの顧客体験の文脈で語られることが多い。
そのなかで、3Dデザインをファッションデザインにおける創造的な可能性の拡張に援用しようと試みるのが、HATRAの長見佳祐氏だ。ファッションデザイナーとしてCLOの積極的導入、そして普及支援にも取り組む長見氏だが、その活動の一貫として、ファッションスクール「ここのがっこう」にて、ファッション専用の3Dモデルソフト「CLO(クロ)」と3D衣装作成ソフト「Marvelous Designer(マーベラスデザイナー)」のワークショップを開講している。
そして今回、2019年12月から2020年1月にかけてその第2回が開催され、2020年1月16日には最終成果発表会が行われた。講評には長見氏の他に、NaTRIUMのデザイナー工藤雅俊氏、アーティストのSUNJUNJIE氏、Synflux主宰の川崎和也氏、BNN出版の岩井周大氏など豪華メンバーが集結。今回はそこで披露された作品の一部や、ファッションにおける3Dデザインの新たな可能性をめぐる議論をご紹介したい。
建築的アプローチの援用
まず何より驚いたのが、受講生のみなさんの作品レベルの高さ。特に建築領域が専門の方は3Dモデリングソフトに馴染みがあり、建築的思想をファッションに落とし込む実験が展開されていた。
例えば関氏の作品では、実際のザハ・ハディッドの建築作品の造形を衣服のパターンに展開している。
Image Credit : 関港(今村創平研究室)
[ Instagram:@sekikoh ]
このアプローチの面白さは、スケールの超越にある。Synflux川崎氏もコメントで述べていたが、3Dモデリングの導入は建築のようなラージスケールなものを衣服に落とし込む、そんな実際のスケールの差異を無効化するアプローチを可能とする。
また表層的なデザインだけではなく、内部構造への工夫にも焦点が置かれるという点も建築と親和性が高い。3Dモデリングの導入は、建築や他のデザイン領域のアプローチをファッションに持ち込む、共通言語としての可能性を秘めているのだ。
二次元と三次元の混在
もうひとつ特徴的だったアプローチが、2次元と3次元を同じ画面のなかで同居させるものだ。それは奇妙な違和感を感じさせる舞台装置のようで、衣服に対する光や重力の効果を強調する。
Image Credit : 松永駿
[ Instagram:@shun_matsunaga ]
紙にスケッチを描く、身体を想定して立体的なデザインを組む、そんな平面と立体を行き来するデザインプロセスのように、またモデルと背景の関係性を考えるフォトシュートのように、デザイナーの頭のなかを具現化するためのツールとしての有用性を感させる。
Image Credit : aya
[ Twitter:@__p0me__ ]
コンセプトとビジュアルの往復
構造へのアプローチ、光や重力へのアプローチなど様々な実験が展開されるなかで総じて感じたのは、3Dをデザインプロセスに持ち込むことによって、コンセプトとビジュアルのが強化されているという点だ。
Image Credit : 小牧仁美
[ Web / Instagram:@mi_te_yo ]
「選べなかった身体、デコって自分にしてこ」と掲げ、ファッションアーティストとして活動する小牧氏の作品は、バーチャルのなかで理想の自分になることを探求する。3Dスキャナーで撮影した自分自身の姿を土台に、自分のコンプレックスや美意識を取り込んだ作品となっている。
理想の自分を構築する過程に、生まれ持った自分自身の痕跡が織り込まれていく。それは自分を飾り立てると同時に、自分を表現する「ファッション」という営みを再解釈する試みとなっているのかもしれない。
Image Credit : 宿谷直史
講師の長見氏が最も心惹かれた作品として選出した宿谷氏の作品は、重力や布の特性をシュミレーションできるCLOの特性を活用。
長見氏は「ツールの特性を理解したうえで遊ぶように創作していたのが印象的」と、作品を評価したポイントを述べていた。どこまでが服なのか、服のかたちや着用する身体との関係性、そういうった既存の「衣服」概念を問い直す実践の可能性を感じることができる。
このように3Dでのデザインはコンセプトと造形の距離を縮め、またその往復を可能にしているようだ。CLOなどの3D制作ソフトがデザイナーにとってどのようなツールとなるのか、まだその実験と実践は始まったばかり。しかしながら、多様な解釈によって創造性を拡張するのは間違いないだろう。
プレイヤーを広げる3Dデザイン
今回のワークショップを経て担当した長見氏は、「昨年の第一回にくらべ、他分野からの受講生が大幅に増えた。その分表現も多彩なものになり、効率化とは違うかたちで、それぞれがクロスシミュレーションの豊かな可能性を引き出してくれた。」と感想を述べてくれた。
日本のファッションデザイン教育のなかで独自の立場を築く「ここのがっこう」での3Dデザイン講座。次回の開催は未定だが、今後のさらなる展開にも期待していきたい。
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