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【コラム】ウェアラブルは定着する?ーファッションテックがマルチツールとなる難しさ

アニメや映画のなかにでてくる秘密兵器でしかなかったウェアラブルコンピューターも、もう一般消費者の私たちでも手にすることができるようになった。なかでもスマートウォッチはApple Watchによって大きな注目を集めた。
Apple Watchは初代の発売からもうすぐ4年が経過するが時計全体の売り上げにおいて世界1位となり、もはや時計業界の脅威となる存在だ[1]。そして安価な後発商品も増え、ますます一般に普及していくのかもしれない。

その一方で、日本ではすでに所有率が80%に達しているとのデータもあるスマートフォンのように[2]、誰もが所有するアイテムになるかと言われると、まだそうとも言えない。ウェアラブルコンピューターはどのような方向に向かうのか。そして、私たちが当たり前に手にする時代はくるのだろうか?
今回は、ウェアラブル端末やハイテクファッションアイテムについて考えてみよう。


機能特化か、マルチ機能か?

2016年にNIKEのスマートスニーカー開発、特許申請が報じられたとき、それは運動データを記録し、スマートフォンなどで記録できるものだった。しかし、今年になって発売が報じられた“adapt BB”は自動フィッティング機能を搭載したものだ。

運動データの自動取得が可能なアイテムとしてはスマートウォッチがすでにその配役を獲得していると言えるだろう。一般の人が同時に2つのアイテムで心拍数を取る必要なんてないのだ。このようにウェアラブルアイテムが一般化していくうえでは、アイテムごとの機能の住み分けが必要になっていく。

そしてウェアラブルアイテムは、「何に使えるのか?」ということを消費者がまだイメージしきれていない。もしかしたら作り手のなかでも、そのビジョンは様々なのかもしれない。「何でもできる」ものよりも、そのアイテムの今までの問題点、現実的な課題をテクノロジーで解決するものの方が誰にとってもわかりやすい。

そして「何でもできる」マルチに活用できるものか、それとも何らかの機能に特化したものか、そのどちらを目指すかはアイテムの特徴にもよる。価格帯を考えても同じアイテムを毎日使用することが一般的な時計や眼鏡は、マルチな活用ができるスマートデバイスとなり得るだろう。

それと比べてスニーカーや服はコーディネートするもので、毎日取り替える人が多い。そのためこうしたアイテムでは、スポーツの試合中に最適なフィット感を調整できるスニーカー、アウトドア活動に便利な温度調整の可能な肌着といったように、オケージョンを絞り込んで機能を付与する方が戦略的だ。

開発側が予想もしなかった使い方が広まっていくにはまず、そのプロダクトがある程度まで普及する必要がある。普及にむけて口火を切るためにも、「何でもできる」より特定の機能を訴えていった方が消費者は受け入れやすいのかもしれない。


プロダクトの文化史との関わり

そして何より、それぞれのアイテムにはそれぞれの歴史がある。その社会的、文化的背景とどう接続するか、それもまたウェアラブルアイテムのひとつの課題だろう。

そういう意味で、NIKEの自動フィッティング機能つきスニーカーは興味深い。スニーカーというアイテムは多くのファンやコレクターが存在し、学校でスニーカーの文化史を教える試みがなされるほどに[3]、社会との関わりの深いアイテムだ。

スニーカーは昔から、有名人とのエンドースメント契約を結ぶことでそのイメージを作り上げてきた。スニーカーを履くことが特定の選手やチームを応援すること、ともに戦うこと、そして勝利した暁には勝者のイメージを身にまとうことになるのだ。なので、ブランドは積極的に強い選手、ファンの多い選手とのエンドースメント契約を展開してきた。

また、ヒップホップを筆頭にした音楽文化との関わりも無視できない。マイノリティコミュニティの象徴であったり、ファンコミュニティの象徴であったりといった具合に、特定のコミュニティの広がりとともにプロダクトを育てることもあった。このようにスニーカーは文化と結びつくことで絶えずイメージを更新し、プロダクトへの憧れと強い結びつきを作り上げてきたのだ[4]。

今回の自動フィッティング機能は映画『バックトゥーザフューチャー』のなかに登場したもので、2016年にプロトタイプ版がリリースされた時は映画のデザインそのままだった。映画のファンコミュニティや映画のなかでつくられたイメージへの憧れを、新たなプロダクトやテクノロジーの普及に結びつけていく。それはスニーカーの伝統的な戦略だ。

スニーカーだけでなくファッションアイテムにはそれぞれに固有の歴史や文化と、それに紐づいたファン層や消費スタイルがある。プロダクトの社会的位置どりや文化的背景、伝統的なプロモーション戦略を上手に引用して今までの顧客層と接続していくことも、新たなハイテックプロダクトに必要なことなのかもしれない。

機能性とファッション

それでは時計、眼鏡、スニーカーといったアイテムのスマート化が推し進められてる一方で、狭義での“服”も同じような方向へ向かうのだろうか?
服は靴以上に毎日取り替えるもので、洗濯など手入れにより摩耗する。形状も多様だ。肌に直接触れ、動作も加わるゆえ、ハイテック機能を服に搭載していくことは困難が大きい。

ファッションショーのランウェイでは積極的に導入されているテクノロジーも、実際に商品化まで至っているものはわずかだろう。実際にはブランドやデザイナーのイメージを刷新するためにハイテックアイテムを展開していくというよりも、ウェアラブルアイテムをファッションとして定着させていくために、ブランドやデザイナーのイメージを利用して“ファッション”の方法論を参照するという方向性の方が一般的になっている。

しかし、上記のようにウェアラブルアイテムの方向性が「何でもできる」ではなく、ある機能に特化したものになっていくならば、この「取り替える」という性質はむしろポジティブな要素になり得る。
「何でもできる」はスマートフォンに委ね、洋服がそのオプションツールなってオケージョンごとに必要な機能を選択できるようになるかもしれない。

ウェアラブルプロダクトでも、その日の気分に合わせて色やデザインが変えられることを売りにしているものも存在するが、洋服を選ぶことはデザインの選択だけではなく、その日の気温、行動予定を加味して機能性の選択もしなくてはならない。むしろこの機能面の方が、消費者がテクノロジーを導入しやすい部分でもある。

近年のシンプルで機能的なノームコアの潮流も、こういったウェアラブルアイテムが普及する素地として重要だろう。それを考えると、ウェアラブルアイテムはファッションアイテムになる必要があるのか?そうでないのかもしれない。

それでも、歴史や文化との結びつきが強い“身に着ける”アイテムをテクノロジーや機能性だけで普及させることは、想像以上に難しい。ファッションは革新であると同時に、歴史や伝統、習慣でもある。新たなテクノロジーは歴史と文化のなかで文脈づけられて、そこで初めて意味や価値が見出される。気づいたら当たり前になっている、そのためにも新しいものを“当たり前”とどう結びつけていくかを考えるのが大切なことなのかもしれない。

Text: Yoko Fujishima

[1]engadget日本版「Apple Watchがジュエリー業界の売上に食い込む?すでに時計業界の脅威になっているとの観測も」
[2]博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所「メディア定点調査2018」
[3]川村由仁夜『スニーカー文化論』日本経済新聞社, 2012, pp.134-135.
[4]スニーカーの歴史の詳細は、上掲書を参照。


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