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【特集・コラム】リアルな場を失ったとき、人は何のために「纏う」のか(角田貴広)

角田 貴広 / 編集・ライター
1991年、大阪生まれ。東京大学医学部健康総合科学科卒業、同大学院医学部医学系研究科中退。ファッション業界紙「WWDジャパン」でのウェブメディア運営やプランニング、編集・記者を経て、現在はフリーランスに。メディアでの執筆をはじめ、ホテルベンチャー、IT企業のオウンドメディア運営、イベント・プロダクト企画など、メディア以外の広義の編集に関わる。

リアルな場を失ったとき、人は何のために「纏う」のか。そんなことを考えていた。

私はもともとファッション業界紙のエディターとしてアパレル業界を見てきた後、L&Gグローバルビジネスというホテルベンチャーのお手伝いをしている。

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ファッションとは、広義では自らが「纏う」ライフスタイルの意思表示のことである。どんな洋服を着るか、どんな音楽を聴くのか。さらには、どんな暮らしをして、どんなホテルに泊まるのか。「纏う」大きさが異なるだけで、これらすべてをファッションということもできるだろう。さらにいえば、洋服が出かけたくなる動機を与えるものであるならば、ホテルはその欲望を満たすために存在する。洋服とホテル(空間)は切っても切り離せない関係にある。

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さて、アナログな体験こそが最大の価値を生むホテル産業が、もしもリアルを失ったらどうなるのか。現実に起きているそれはまるで壮大な社会実験のようだ。私たちが運営する5つのホテルでは4月5日以降、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために臨時休業することを決めた。それと並行するようにnoteを活用したオウンドメディアを「HOTEL SOMEWHERE」という名称にリブランディングし、「オンラインに存在する架空のホテル」というコンセプトを掲げた。(これがホテルと呼べるかどうかはさておき)執筆時点では、バーチャルのみにホテルを持っていることになる。

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私たちが運営するホテルでは、「ライフスタイルを試着する(=纏う)」ことをコンセプトに、たとえば「HOTEL SHE, OSAKA」では「レコードのある暮らし」を提案している。ホテルに宿泊することで「レコードのある暮らし」を体験し、気に入ってもらえたらそのライフスタイルを生活に取り入れてほしいという考えだ。

リアルを失ったいま、オンラインのホテルが提供できる価値は何なのだろうかということを必死で考えた結果、リアルとバーチャルの垣根を超えても変わらないものは「ブランド価値」でしかないと思うに至った。リアルと同じサービスを提供しなくてもいい。伝えたい思いが同じであれば、プラットフォーム(リアルかバーチャルか、ひいてはどんなバーチャルの場なのか)はなんだっていい。

リアルなホテルに来てもらうのではなく、オンラインを通じて私たちがお客様のお家へ出向く。プル型からプッシュ型へ。オンラインを通じて、提案したいライフスタイルを届ける。たとえば、月額課金制で、毎月のテーマに合わせたアイテムをお家へ送り、それに関連したコンテンツをメディアを通じて配信しようというようなことを考えている。コンテンツはまったく変わってしまうが、それでも根幹にある思想が変わらなければ、それは私たちがやる意義のあることだと信じている。幸いにして、圧倒的にリアルよりもオンラインの方がテクノロジーを活用してできることは多い。リアルからバーチャルへ。「纏う」という行為を拡張するにはもってこいの場だ。


今回の新型コロナウイルスの影響はすぐには収まらない。ファッション業界も、ホテル業界においても、短期的な対処方法ではなく、抜本的な越境方法を模索する必要があるだろう。もしもすぐに日常が戻ってきたら、斯様の憂慮などかなぐり捨てて、強みだったリアルをまた活用すればいい。

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というわけで、冒頭の問いに戻る。リアルな場を失ったとき、人は何のために「纏う」のだろうか。鷲田清一さんは「ちぐはぐな身体」の中で、ファッションのことを「規定の何かを外すことであり、ずらすことであり、くずすこと」だと表現している。それは「等身大」であることの拒否であって、「纏う」ことは“ちぐはぐな身体”を自らの理想に向けて整えることであるという。

事業者側として、私たちは誰に何を纏ってほしいのだろうか。安心なのか、活力か、それとも好奇心か。当然答えはブランドによって異なる。でも、場所が変わっても案外「纏う」理由は変わらないのかもしれない。どうやってEC化率をあげるのかとか、オンラインで顧客単価をあげるのかなどという具体方法を検討することも大事だが、今はまず、それぞれがバーチャルを通じて「纏う」ことの意味と、その拡張方法を考える時なのかもしれない。


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