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手のジェスチャーでApple Watchの動作を可能に Mudra Bandの挑戦

イスラエル発Werable Device LTDの開発プロダクト、Mudra Band。本製品は、Apple Watchの小さな画面の操作困難性を解消すべく、Apple Watchに装着するリストバンドである。独自に開発した筋電センサーと、筋電図を解析するAIの技術を応用し、手のジェスチャーに応じてApple Watchをジェスチャーのみで操作できるという。現在、電子機器の見本市であるCESや、クラウドファンディングを通じて注目を集めている。今回、Chief Scientist&PresidentのGuy Wagner(ガイ・ワンナー)氏と、日本側のジェネラルマネージャーを担当しているMasahiro Yamamoto氏に、インタビューを行った。

Apple Watchに着用可能なリストバンド Mudra Bandの機能

Mudra Bandは、Apple Watchの操作を手首のジェスチャーのみでコントロールするための、Apple Watch対応のリストバンドである。Mudra Bandは、微細な指の動きや指先の圧力のデータをリアルタイムで計測し、デジタルデバイスの操作や制御を可能とし、日常生活におけるスマートウォッチの操作を、より自然かつ直感的なものへと導くという。まずはじめに、Mudra Bandがどのように機能し、そして次にそれらがどのような技術によって可能となっているのか、詳細を伺った。

―Mudra Bandは具体的にどのようにApple Watchと連携しているのですか。

バンドの裏側に配置された金属部分が、生体電位を検出しています。このバンドは、手首付近に流れる電位を検知し、手首が特定の動きを行った場合に流れる電位によってApple Watchを操作できます。手首の動作は必ず、意図的に行わなければならず、例えば指や手首を別の使用して動かした場合は、何も起こりません。

動作に至らなくとも、動作をしたいと思った際に流れる微細な電位も計測していることから、ブレイン・マシン・インターフェイスであると言えます。つまり、脳から発生した意図が、神経を介して、デバイスへと直接接続されている、ということです。

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独自のセンサーの開発

ーMudra Bandの開発ストーリーを教えてください。

Mudra Bandは、簡単に言えば、筋電図(Geo ElectroMyoGraphy / EMG)に応じてセンサーが反応するという仕組みです。開発にあたって直面した重要な問題の1つは、センサーを手首に配置することでした。腕のなかでも、肘の近くなどは、手首よりも精細に筋電図を取得することができるのですが、センサーが肘近くに配置している場合、どれだけ技術が優れていたとしても、製品の外見がユーザーにとって、かっこいい、購入したい、と思えない製品では意味がありません。

そこで、人々がすでに時計やリストバンドの装着で馴染んでいる手首に焦点をあて、ユニークなセンサーの開発を行いました。筋電位をベースにしていますが、手首周辺の筋電位はとても微小なため、認識可能なセンサーの開発はとても時間がかかりました。

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―Mudra Bandには、どのようなアルゴリズムが使用されているのでしょうか。

大きく分けて、3つのアルゴリズムが機能しています。まず1つ目は、(電位の)シグナルを検出するアルゴリズムです。本当にその電位は、意図して発生されたものなのか、あるいは、手で頭を掻いているノイズなのか、といったことを判定しています。

そして2つ目は、ジェスチャーを検出するアルゴリズムです。開発にあたって、ユーザーテストを行い、何千回分以上のデータを取得し、データバンクを作成しました。手首周りに特化した電位のデータを集めたデータバンクはあまり存在しないように思います。このアルゴリズムによって、ユーザーがどのような動きをしたかが、データにタグ付けされ、電位とジェスチャーの関係を紐づけることができます。この種のアルゴリズムの設計はとても難しく、数年を要しました。

最後に3つ目は、圧力の測定です。これも、ジェスチャーと同様、多くのユーザーテストを行いました。リアルタイムで押した際の血圧を測定し、血圧のレベルの変化から、シグナルにかける血圧の量との関係性を見出し、どれだけ押したのかを判定できるようにしました。

さらに、これらに加えて独自に開発を行った、「orientation(オリエンテーション)」という機能があります。これを私たちはセンサーフュージョンに使って、異なるセンサーを用いて全体を統合的に処理しています。これによって、手の向きを感知できるため、エアマウスのように手を動かすことも可能となりますし、さらにはユーザーの活動状況、例えばランニングしている、立っている、などをジェスチャーの検出にも応用することも可能となります。

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ーソフトウェア、ハードウェアすべてを独自に開発されている、ということですが、全体で開発期間はどのくらいかかったのでしょうか。

私たちがこれまでに開発してきた事項をピラミッドに例えるのであれば、一番下のベースはハードウェアに該当し、上のほんの少しの部分がソフトウェアに当たると考えています。7年における開発の中で、合計で4年はハードウェアの開発に当てています。今だからこそ、ソフトウェア側の開発事項は増えているものの、生体電位を日常のなかで常に正しく計測するようなハードウェアを開発することはとても困難でした。

例えば、医療機器で使用されている素材では、短時間での使用を見込んだ素材選定であるため、長時間、まして日常的に着用することはできません。そのため私たちは、常にユーザーに心地よく使ってもらうためのデバイスを開発したいと考えていたこともあり、独自のハードウェアのパーツを開発しました。どのように生体電位を取得し、電気的なシグナルへと変換するか、といった点です。

さらにスマートウォッチの一部としてハードウェアをデザインするに当たって、サイズや外見といったファッションの観点から何が受け入れられ、そして何が受け入れられないのか、といったユーザーへの理解を深めました。近年では社内のプロダクトデザイナーがハードウェアのデザインを行っているので、見た目やフィットなどの細かい点にも気を配っています。

このように私たちは常にハードウェアに注意を払っていることもあり、ソフトウェアの開発は、安定したハードウェアができた段階で具体的に開発が進められるように考えています。

Mudra Bandのアイデアの出発点

ーでは、そもそもApple Watchと独自のリストバンドを融合させるというアイデアの起源はどのようなものだったのでしょうか。

Mudra Bandのプロジェクトは、7年前にガレージで、共同創業者たちと始めたものでした。当時は、ウェアラブルデバイスの研究開発が活発な時期でもありました。

さらに遡り、私たちが学生の時期がちょうど、ブレイン・マシン・インターフェイス黎明期であり、自分の意図にそってコンピューターを制御する能力を目にしたことがきっかけで、興味関心を長年持っていました。しかし、当時の機材は、大きなセンサーを使用して、電位を計測しており、技術そのものには惹かれたものの、誰もが使いたいと思えるものではなかったように思います。

そして、7年程前からウェアラブルが市場に出回り始め、理解され始めたという変化は、以前からあった技術を誰もが使用できうる可能性を示したように感じています。そして、Apple Watchを初めとするスマートウォッチが市場に出回る中で、スマートウォッチが抱える問題に気づき始めました。


ーその問題とは具体的には何を示すのでしょうか。

Apple Watchのようなスマートウォッチの抱える問題は、操作するためには、小さなスクリーンの操作に着用しているのとは別の反対側の手を使用しなければならないという点です。例えば、iPhoneのようなスマートフォンを使用するときは、持つ手と操作する手は1つですが、Apple Watchの場合、やりたいことはすべて、もう一方の手を使わなければなりません。

具体的には、ランニングやサイクリング中など、両手が塞がってしまうような状況下で、曲を再生・停止したり、スワイプして次の曲を聞きたいといった動作を行うにも、手でスクリーンを操作しなければなりません。このような問題が自明であったため、何らかの解決策が必要だという思いがありました。つまり、我々にとって、Apple Watchのようなデバイスの操作性を補助するウェアラブルの開発は、時を待たずに実行に移しました。

初期の開発はデベロッパーが使用しやすいAndroidを使用していたものの、Apple Watchの市場がすでにあったため、Apple Watchに焦点を当て開発を進めました。Apple Watchを購入するユーザーの特性として、技術革新を好み、スマートなものにいくらか投資する可能性があることを踏まえると、約200ドルの皮革のバンドとは異なり、179ドルのバンドの技術は、そういったApple Watchユーザーの期待に沿うことができるように思います。

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消費者に

ーMudra Bandは、昨年のCES2020、さらに本年のCES2021でも発表されていますが、この一年間での変化は具体的にはどういったものだったのでしょうか。

この1年での変化はコロナウィルスの感染拡大の影響によるものです。昨年までは、主にBtoBに焦点を当て、私たちの技術を使用する企業に販売、企業による独自のユースケースの開発を主軸としていました。しかし、コロナウィルスの感染拡大により、誰にも会うことができないという状況下で、ビジネスミーティングを続行することが困難と判断しました。それは、リモートで会議を続行するということに加え、関係性や信頼性を築くといったことです。そこで従来の方法での継続が困難と感じ、「今が消費者向けの製品開発を行うのにより良いタイミングだろう」と判断しました。

そうして、消費者に展開するための新しいデバイスの開発にシフトしました。そうして、生まれたこの新しいデバイスは、独自のプラットフォームや、indiegogoを通じて、既に15000台以上が売れました。私たちにとってこれは、全く新しいチャレンジであり、例えばマーケティング戦略などもBtoBで行っていたのとは全く異なるため、学ぶことも多くありましたが、とても良い変化であったと感じています。

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ー最後に、日本の読者に向けて、今後の日本での展開について教えてください。

現在はMudra Bandの公式プラットフォームや、indiegogoのみで直接購入していただくことが可能です。もし将来的に日本のリテールで販売が始まるとなればうれしいことです。

スマートウォッチをよりスマートに、意図する操作にリアルタイムで応答するスマートウォッチへ。操作をより簡単に、製品の使い心地を担保しながら、日常に溶け込む外見へと、既存のスマートウォッチの機能やファッション性を担保しつつ、アップデートする提案。今回のインタビューを終え、我々の日常生活ともはや切っても切れない情報技術、そしてそれの媒体となるデバイスとの関係性が現在どのようであり、今後いかに変容していくのか、考えさせられた。

text by Hana Hirata

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