yutoriがつくりだした私たちの場所:SNSでファッションをビジネスにするには?(後編)
昨年、ZOZOグループにジョインした株式会社yutori。そのミッションは「臆病な秀才の最初のきっかけを創る」というもので、ストリートをオンラインでプロデュースしている。統括する社長は弱冠27歳の青年、片石貴展氏だ。古着に特化したInstagramメディア「古着女子」を皮切りに、現在までに「古着男子」というInstagramメディアのほか、数種のブランド等、ビジネスを拡大し続けてきた。
片石氏に話を聞くと、「SNSによるファッションの民主化」、「リッチな体験としてのオフライン」、「弱さを出せる会社」、「ロマンとそろばんの両立」など、興味深く現代を読み解く視座と経営論を語ってくれた。yutoriとは何か?片石貴展とはどんな思想の持ち主なのか?今回は彼へのインタビューを通して、その真髄に迫っていきたい。
メジャーに引き上げる翻訳力
ーー各ブランドのアカウントや商品をみていると、街で古着屋巡りをしているような感覚を思い出しました。SNSでの経験が古着屋を巡る都市体験とリンクしていたように思うのですが、何か意識されていることはありますか?
僕たちのブランドの思想がやっぱり、「リバイバル」っていうのが1個要素としてあって、古いものを今っぽくするっていう考え方なので、それがルーツにあるから古着屋さんを巡ってる体験に近いのかもしれません。下北も70年代がテーマの古着屋もあれば、80年代がテーマの古着もあって、でもそれは古着っていうカテゴリーとか古着をルーツにした服作りってとこで統一されていると思ってて、そこに共通性があるんじゃないかと思います。
ブランドって時間が経てばそのブランド固有のお客さんをどんどん増やしていけるっていうのがあるんですけど、僕たちは最初に古着の既存のアカウントからブランドにリーチさせていく戦略をとってます。そこにまず刺さるようなことを考えると、個々のブランドが一定似通ってくる、つまり古着好きが集まる場所になるような部分もあるんじゃないかなって思いますね。
ーーリバイバルというか、ある時期の力みたいなものを実現させようとしてたのかなって思いました。
そうです。「インディーズからメジャーへ」って言うミッションを最近決めたんですが、9090sとかも背面にバックプリントをバンって入れてメッセージ性が強いのを入れたりというのは僕たちがある種パイオニアで、大手のパクリみたいなのもすごく出てきてています。要はインディーズって今評価されていないもの、みんなが見向きしていないものを引っ張り出してメジャーにしていくPR力、翻訳力ですかね。
ーーうんうん、翻訳力!
結構その「インディーズからメジャーへ」っていう思想はこれからも新しいブランドを作るときとかも意識していきたいなって。それってもう古着をディグる感覚と一緒なんですよね。ゴミとして捨てられている古着の中で、自分としてはいいって思ったもの、例えば4人で古着屋やリサイクルセンターに行って、誰かが「これやばくね?」って見つけたものがその中でめっちゃかっこいいって伝播していくような、こういう感覚を限りなく大きいスケールでやっていきたいっていうイメージです。
弱さを出せるゆとらない場
ーーウェブサイトでも手書き感のあるテイストを出されてたり、noteでも「ゆとらないトークセッション」を開催されてますが、オンラインでもオフラインでも、片石さんにとっての「場」とはどういうものでしょうか。
場を作るときに意識しているものの中で重要視しているのは居心地の良さですかね。それは会社という意味でもそうだし、ウェブサイトの手書き感みたいなところでいうと、抜け感のあるものが好きで、どこかあえてダサい部分とか弱い部分とか崩した部分があると、そういう空間の中って自分自身のことをさらけ出しやすいと思っているんですよ。会社の名前もそうだし、また会社の経営って視点で見ると、やっぱり僕たちはファッションコンテンツの会社なので、面白いコンテンツを継続的に出していかないといけない。
ーーなるほど、居心地の良さは大事ですよね。
じゃあ面白いものってどういう空気から生まれるんだろうっていったら、やっぱり緊張感がある場所で生まれないじゃないですか。何か言ったら責められるようないわゆるちょっと前のロジカルシンキング的なカルチャーの会社で、言語化を不必要に求められる環境だと、直感的にいいもの、これおもろいっていうのを言いづらかったり、本当に面白いものって言語化できなかったりするから、ゆるさや独特の抜け感、ちょっと人間臭い部分みたいなのを会社のPR的には出すようにかなり意識してます。自分もそういうキャラクターなので、それが自分らしいっていうのもあるし。居心地をよくする取り組みは結構していますね。
ーーyutoriって、会社名からしてゆとり世代が作った会社と言われると思うんですけど、本質はそこじゃなくて、今言ったような弱さを出すとか居心地の良さを作るみたいなところなんですかね。
そうですね。でも単純にそれだけが先行しちゃうと、それってなんか悪い意味での居場所でしかないと思っています。目的がない居場所ってあんま好きじゃないので。会社だったら面白いファッションの商品を出すためにそういう空気感をある種戦略的に作ってるっていうのがあって、目的があるかないかっていうのもすごく重要かなとも思ってますね。
ーーyutoriはバーチャルを活用した仕掛けにもいち早く参入されていました。今後取り組んでいきたい、チャレンジしていきたい領域はありますか?
基本服から出ることはないです。2023期に上場を目指しているんですけど、服以外にやることはないんじゃないかなと思っていて。やっぱり自分は服、アパレルに深い情熱を持っていますし、コロナ禍を通してよりそれが強くなったというか。こんな厳しい状況でも、自粛中でもみんなやっぱいろんな服買うし、ライフスタイル系の家具とか身の回りをよくしてくことにお金を使ってるし、それって普遍的だよねってすごく思ってて。ライフスタイルまで拡張することはあると思いますけど、服周辺のものから出て行くことはないと思ってますね。
ーー服や生活の身の回りのものへの普遍的な欲望は確かにあると思います。
その上で新しい文脈でいうと、ファッション業界に長いこといらっしゃるのスタイリストさんとかデザイナーさん、ファッションのプロフェッショナルな方と、僕らみたいなある種ニューウェーブな会社が混ざりながら1個のものを作っていくのは大義もあるし、個人的にはめちゃくちゃワクワクします。そこには今まで自分たちが作れなかったものが作れるなっていう感覚がすごくあって、そういう動きはしていきますね。
「ロマンとそろばんを両立させたい」
ーー目指していきたい会社像や、顧客を含めyutoriが作るカルチャーの理想形みたいなものってありますか?
「ロマンとそろばんを両立させたい」っていうのはありますね。なんか、いろんなSNSを通して小さく個人としての好きなことができる世の中にはなってきているとは思うんですけど、そこからまだスケールしきってるところは少ない、あるいはスケールを目指している人は意外と少ないんじゃないかなと思ってて。「臆病な秀才の最初のきっかけをつくる」っていう会社のビジョンがあって、社員とか一緒に働く仲間を増やしたいんですよ。すごくわかりやすく言うとyutoriっていう国をもっと大きくしたいっていうのがあって、それは自分が単純に友達を増やしたいっていう欲求なんですけど。
ーー人と協働するという感じでしょうか。
自分の小さい好きから始まった物語でも、いい意味で目標を高くしていろんな人を巻き込んでいけば、そのちっちゃい火種もこれだけ大きくなるんだよっていうのを見せたいなっていうところがあります。だから、ある意味ユートピア的なyutoriっていう国をもっと大きくしていきたい、そこに関わってくれる人を増やして、入ってくるメンバーをプロデュースして、その人たちが自分の個々のスタイルに自信を持ってくれればなと思います。自分のありのままで生きてく人が増えたら、その人と同じ人っていないと思うから、面白い人が増えると思うんですよ。会ってこの人おもろいなって、そういう人がもっと増えたら、生きてて楽しいなと思っています。
ーー一緒にやることで、むしろ個人がありのままに生きていける。
ある意味SNSっていろんなものを均一化させて役に立つものに収斂していってる気がするので、ファッションが意外と均一化されていると思っています。昔のストリートスナップ全盛期みたいな、自由に服をミックスさせた面白い人は意外と少なくなっている気がしています。やっぱりTwitterやInstagramだったらいいねとか、短期的に他者から共感される方向に自分の人格だったり、自分の人生だったり、自分自身をそっちに向かわせる重力が強いけど、簡単に共感されることってわかりやすいことだから面白く無くなってっちゃうって気がしていて。
自分たちがめちゃめちゃSNSを使っているから思うこと、そういった危惧感とか危機感はあるから、いいねっていう他者からの共感っていうのはもちろん1個の要素だけど、それと同じくらいに自分自身どういう人間なのか、自分のスタイルって何なのかについて、そのスタイルにむしろ共感させていける人が増えたら、そして会社の今のビジョンをもっと広げていきたいなって思っていますね。
ーー他者からのいいねも大事ですけど、自分自身にいいねをしてあげられたらいいですよね。
そうですね、そこの両立がやっぱりテーマです。それはこの世代とかもっとその下の世代、物心ついた時からSNSがある世代特有のものだし、みんなが背負ってる問いだと思うので、そこに関して「こういうバランスだったらいいんじゃない」っていう答えを個人でも会社でも出したいっていうのはありますね。
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3Dプリンターの汎用化によってものづくりの民主化が進むと予想されてから数年、現代はSNSの発達によってその民主化が先取りされているような印象だ。なかでも「場」を共有するということは、ファッションの重要項であるコミュニティの思想を踏まえたものであり、オンラインで場づくりが発生するということはある種必然と言えるかもしれない。
片石氏はそんな時代の潮流を敏感に察知し、ある時代のコミュニティをリバイバルさせつつ更新し、提案している。彼、そしてyutoriは「私たち」に寄り添った戦略によって着実にビジネスを拡大しているのだと感じた。yutoriという国が多くの人たちを巻き込んだユートピアとなる未来が、すぐそこに来ているような気がする。
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