【特集】デジタルを新たなファッションの“遊び場”へ「The Fabricant」
2019年5月、世界初デジタルクチュールを発表した「The Fabriant(ザ・ファブリカント)」。デジタルファッションハウスとして展開を続けている彼らは、変化の渦中にあるファッションショーやショールーム、さらにそのデザインプロセスに対し、今、何を考えているのか、インタビューを行った。
The Fabricantの使命
The Fabricantは2018年1月1日にアムステルダムで設立されたデジタルファッションハウスだ。「show the world that clothing does not have to be physical to exist (衣服は存在するために物理的である必要はないと知らしめる)」という使命のもと設立、現在に至る。
2019年 ブロックチェーンで9500ドルで販売されたドレス ”Iridescence”
2018年ごろから、ファッションウィークが開催されるようなトレンドの中心地ではないオランダで、3DCGを用いたファッションテックのスタートアップが盛り上がっている現状について伺ってみると、「クリエィティブとテクノロジーの親和性の高さがある」と返ってきた。「クリエィティブな側面とテクノロジーが掛け合わさることで、先入観やバイアスのない表現の可能性の模索が可能だった。」とし、彼らは業界の外側から業界に先行するかたちで、デジタルオンリーのファッションの可能性を示すべく、デジタルクチュールを設立したそうだ。
発足当時を振り返って彼らは、「自分たちの体現したい使命とは裏腹に、周囲からの反応は、「『まるでサイエンスフィクションのようで、未来的なコンセプト』を話していると感じられていた」と創業初期の難しさを語った。
デジタル方面へ牽引、物理的な制約を超えた表現
The Fabricantは、独自のデジタル・コレクションの他にも、ブランドやクリエーターをクライアントに持ち、「対話を導く」事で、デジタルのみのファッションの可能性を開拓している。場所や国籍、国境を物ともしないインターネットを介した表現だからこそ可能となる協働、急速な変化を実現しているのだ。
Fabricant 無料でダウンロードできるコレクション CLO3Dや他3Dソフトウェアにて使用できる(背景は付属していない)
現在The Fabricantは、無料でダウンロードできるデジタルコレクションをウェブサイトで公開している。なかでも、2018年に公開された「Soorty Denim Jumpsuit」は、デニムブランド「Soorty」とのコラボレーション作品である。これは、Soortyの持続可能性への考慮とThe Fabricantのデジタルのみに存在する衣服という形態が合致したとし、視覚的に「Crade-to-Cradle(ゆりかごからゆりかごへ/C2C)」を示した作品である。
Soorty Denim Jumpsuit
制作にあたって、視覚的に「21世紀のファッション」の表現手法を模索するなかで彼らは、「従来のファッションプロセスと同様に、コンセプトフェーズでの考え方の基礎となる人間のニーズ・欲求・文化」を反映しつつ、「新しい形・質感・素材と色・背景・風景・物語を想定した創造性とテクノロジーの境界を押し広げる」ことを心掛けたという。このクリエィティブ・プロセスをもとに、クライアントとの対話を交えながら視覚的なストーリーテリングを実現し、「21世紀のファッション」の可能性を思索したという。これらの活動は、物理的空間とヴァーチャル空間を結びつけるように、領域を超えた表現手法の創造を実践していると言えるだろう。
COVID-19影響をどう受け止めるか
彼らにとって新型コロナウイルス感染拡大によるショーの中止・ショールームの閉鎖といった現実は、これまでのクリエイティブ・プロセスの方向の転回を考えさせたそうだ。
「COVID-19の影響で、業界は余儀なくサプライチェーンのフローを再考する事態に陥りました。突然、ファッション業界はデジタル化への転換を必要性を迫られたのです。物理的なサンプルが入手困難であること、渡航が禁止となったこと、消費額が変動している事態を前に、デジタルへの転換とも言えるデジタルファッションは業界の運用を継続するためにmust-have(必須)となっているのです。」
この危機的状況を前に、「効率が良く、持続可能性を約束するデジタルソリューションを提供する」ことで、彼らは、業界を前進させ、危機的状況にあるセクターを保護すべく現在活動しているという。さらに彼らはこの状況を前に、「これまでよりスマートで、回復力が早く、無駄の少ない『digital-centric(デジタル中心)』」の未来を推進する必要があると主張している。
物理的なサンプルや対話を介入せず制作されたpumaのコレクション
これから 共創するデジタル・ファッションへ
最後に、彼らはいま何を考え、どこへ向かっているのか伺ってみると、現在ベータテストが実施されている「LEELA」が起点として「デジタルファッションの新たな『遊びの場』」となる可能性を答えてくれた。「LEELA」はヒンディー語で「遊ぶ」を意味し、ユーザーはフォトリアルなアバター「DigitalSelf」を作成の上、「FLUID」と呼ばれるデジタルコレクションを着用出来るサービスである。ソーシャルメディアで共有を見込み、画像キャプチャも複数視点から行えるよう設計されているという。
4月初頭から1ヶ月間の限定配信がなされたベータ版は、「ソーシャル・ディスタンシング」が世界的に必要とされていた期間において、ユーザーが物理的な空間で制約を受けながらも、デジタルにある「ファッションの場」を介して、遊ベるよう考慮したそうだ。
LEELA BETA
「デジタル・ファッションでは、ユーザーは受動的な消費者としてファッションとの関係性を位置付けるのではなく、創造的なエージェントとして活躍します。デジタルな服を誰もが自己表現を探りながら創り、(デジタル空間で)身に付け、所有・販売することが可能になるでしょう。そしてそれらを通し、ユーザーのヴァーチャル・アイデンティティをキュレートできる新しいビジネスモデルを模索しています。」
これまでのブランド形態とは異なり、オーディエンスとデジタルツールを介して共創し、そしてオーディエンスの望む「視覚的」な表現を可能にすること。これにより彼らは、「21世紀のファッション」が描くことのできる「協調的・創造的・多様性・包括的」な未来により引き寄せられるようユーザーと対話をしながら進めていくそうだ。
「デジタル・ファッションは、ファッションの本来あるべき姿に戻ります。私たちのアイデンティティと個性を追求し、表現する『遊びの場』です。私たちが構築しているファッションの未来は、協調的、創造的であり、多様性のある包括的な未来と言えるでしょう。」
物理的空間の制約を超えるデジタル・コレクションから、ヴァーチャル空間でのアバター・アイデンティティの形成の手助けまで幅広く活動するThe Fabricant。ロックダウンの現状を前に、ブランドに寄り添いデジタル戦略をつくりあげるのに加え、外出のままならない消費者に寄り添い共に「遊びの場」を創る彼らの試みは、改めてポスト・コロナのファッションのあり方を考えさせられる。
text by hanako hirata
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