モデル不在のファッションショー、ARで宗教上の問題を解決?
ニュースサマリ
2018年12月、イランの首都テヘランでARを活用したファッションショーが開催された。このショーは、イランで初めて創刊されたファッション雑誌Lotusの協賛で行われたもので、企業向けにVRを提供する企業VR VisionのVision portalが活用された。モデルではなく服だけがキャットウォークを歩いて見えるようになっているのが特徴。
AR Fashion Show In Iran Features Invisible Models
via VR SCOUT
話題のポイント
昨年H&MでもARを活用したイベントが行われたように、徐々にARファッションショーを行う企業が増えてきました。
ARファッションショーにも色々ありますが、今回の様に人間のモデルを使わないファッションショーにはどんな価値があるのでしょうか?
若く、細く、ほとんどが白人という画一化された理想的な女性モデル像を崩すという意味では実に新しい取り組みでしょう。
ただファッションショーにおいて、モデルはただ服を着て歩くだけではありません。
服をより美しく見せ、デザイナーの世界観や理想の女性像を表現する主体でもあるため、今回のように完全に人の姿がないショーは今までのファッションの歴史を蔑ろにしているとも言われるかもしれません。
ですが、このARファッションショーでのメリットは、イランという場所に着目すると見えてきます。
イランの国教はイスラム教となっており、女性は顔と手以外は隠すことが経典で定められています。そのためイランでは全身を布で覆うスタイルが一般的になっているので、モデルの起用にも制限があるそうです。
今回の場合は完全に女性の姿は表現されていないため、国教を脅かすことなく自由にファッションを表現できます。
イランならではの需要かもしれませんが、「宗教」という解決しにくい問題をうまく技術で解決した例と言えるでしょう。
Image Credit : Youtube by Ruptly
技術的には、この映像を生成する際の入力が何なのかがとても重要で、大きく以下の2つのパターンがあります。
1. ファッションショーの映像を撮影し後から加工する。人体の箇所を検出して透過する。
2. 服のリスト(例えば服の画像や3Dモデル)とファッションショーの人体モーションから、映像自体を生成する。
映像を見ての憶測ですが、今回は前者ではないでしょうか。
具体的には、モデルに緑の全身タイツを着用させ、その上から服を着させた映像を合成したのではないか?と感じます。
その場合だと機械学習に関する高度な技術や研究要素などは全く必要なく、非常に基礎的な画像処理だけで実現できます。
“技術の流行に惑わされずに需要に正面から向き合い、なるべくシンプルな技術で解決する”というスタンスを感じとることができます。
世界観の問題などモデルの重要性や必要性に関して議論されることも多々ありますが、イランの問題のように真正面から向き合うとどうしても解決が難しい問題もたくさんあります。このような今まで解決が難しかった問題は、現代であればテクノロジーが新たな解決方法を示してくれるかもしれません。