データソリューションを活用する「HARAJU Cross JMC_est」から実店舗の新しい価値を考える
EC化が進むなかで、実店舗の役割が見直されつつある。特に新型コロナウイルスの影響を受け、その課題とともに実店舗という場の価値や可能性も感じさせられたことだろう。
そのような状況で、デジタルソリューションを活用した新たなショールーミングスペースが誕生した。株式会社NTTアドと株式会社羽田未来総合研究所が提携し、原宿駅前にオープンした「HARAJU Cross JMC_est」は、顧客データの分析・活用を目的とした実験的な店舗。ここでは一体、どんなテクノロジーが活用されているのか。今回は、株式会社NTTアド クリエイティブ局長・大越祐司さんにインタビューを行った。
デジタル技術を活用する新たなショールーミングスペース
ーーまず、ショールーミングスペース「HARAJU Cross」の概要についてお聞かせください。
このショールーミングスペースについての目的は、リアル店舗とデジタル技術の組み合わせです。こうした形態がアフターコロナの新常態になることを予測し、顧客のデータを分析、活用して商材開発やグローバルな消費者との仮想的なエンゲージメントづくりに取り組む新たな試みとして、6月16日にオープンしました。
ーーこの開発自体はいつ頃から始まったのでしょうか?アフターコロナを意識してのオープンということですが、コロナの影響を受けて構想されたのでしょうか?
店舗の構想自体はコロナの前から、正確には昨年の春頃、「WITH HARAJUKU」というビルをNTT都市開発がオープンさせるという話があったので、そこで何ができるかと検討しました。
実際借りられるスペースというのが、10坪とか20坪という広さだったので、普通の店舗というよりはショールーミング的なポップアップスペースをやらないかという話が社内でありました。それから検討を始めて、冬ごろにデジタルのデータを取るような商材を決めました。
WITH HARAJUKUはもともと4月25日にオープンする予定だったのですが、コロナの影響で6月の頭になってしまったので、アフターコロナを考慮してショールーミングスペースのデータ収集を行うことが課題となりました。このような状況を、改めて考慮しながらサービス開発を進めています。
ーーでは、羽田未来総合研究所様とはどのような経緯でコラボレーションすることになったのでしょうか?それぞれの役割を教えてください。
弊社は5年前から地方創生、地域活性化に取り組んでいました。「Japan Travel Guide(ジャパントラベルガイド)」というアプリも作り、GPSデータを収集して様々な分析をしていました。羽田空港は日本のおもてなしをして日本の文化を発信している日本のハブです。そこでご縁があって、羽田未来総合研究所様と組んで日本の文化の発信をしていくことになりました。
今回の役割分担としては デジタルのデータ収集や分析を現在は弊社が行っていますが、今後は羽田未来総合研究所様と一緒にやっていこうと考えています。また実際の店舗での飲食であったり、物販だったりのリアルな運営に関しては、羽田未来総合研究所様が得意な部分なので行っていただいています。
データ分析のためのテクノロジー
ーーこういった実験店舗を、日本の魅力を伝えるブランド「JMC_est」から展開した理由は何だったのでしょうか?
数ある選択肢から吟味して選んだというわけではなく、羽田未来総合研究所様と意気投合したという感じです。得意不得意がありますし、弊社が今まで行ってきたのがインバウンドの観光客を中心にした分析でしたので、馴染みのある部分から始めることとなりました。
ーーでは店舗には実際、どのようなデジタルソリューションが使われているのかを教えてください。
特別なものではありませんが、カメラが天井に設置されていてピープルカウントを含めて動体が見えるようになっています。3Dセンサーがついており、お客さまの商品に対する動きが読み取れ、興味を分析できるデータが収集できるようになっています。また、タブレットも置いてあります。通常は商品の情報動画を流しているのですが、カメラでもデータを取っており、お客さまの手の動きを取っています。
ただし、カメラの映像はプライバシーや個人情報と様々な問題があるのですが、店内にあるサーバーで全部を1度、特徴点にまとめて、個人情報に付随するようなものは全て削除しクラウドに送っています。そのため、個人情報については心配しなくてもいいように配慮されています。
ーー実際に来店されるお客様はデータを取られていることを意識しないで店内を見て回れるのでしょうか?
今の世の中は監視カメラも含めてカメラがたくさんついていますし、カメラに対して「なんだこのカメラは」と指差すようなお客様はいないですね。個人情報の使い道については、「個人情報に関するデータは蓄積していません」というような掲示をしています。
ーー具体的にどのような顧客情報が取得できるのでしょうか?
現状でいうと、まだそれほどデータが集まっていないのと、カメラでのデータ取得に課題もあります。どういうことかというと、カメラの映像で性別と世代を判定できるようになっているのですが、コロナの影響でみなさんマスクをされており、判定が難しくなっています。
例えば、現在の分析結果では、男女比率がだいたい男性が45%強、女性が55%弱を行ったり来たりしているのですが、本当に原宿という場所での男女比率がそうなのかという疑問があります。また世代別で見ると、30代がボリュームゾーンで出ていますが、体感としてそんなに多いのかなと思うところもあります。もう少し学習が必要な段階だと思っています。
ーー映像判定のAIの開発、カメラの精度なども開発しているのでしょうか?
こちらは、パートナー会社に委託しています。各ツールを組み合わせて、総合的にデジタルなショールーミングスペースというものを作る、出てきたデータを分析する部分を主に行っております。
ーーでは、取得した情報の活用について、今後の構想を教えてください。
将来的なデータの使い方としては、お客さまの回遊を見るのを目的にしています。店舗内の狭いエリアなので、滞在時間や商品に対して手は伸ばしたけど取らない、買わないといったことの要因などについて分析して、商品の配置に活かしたいと考えています。
加えて、弊社はデジタルマーケティングの他にもイベントを行っています。イベントなどでも、このセンサーやカメラの使い方は活用できると考えています。取得データに対する学習のさせ方や、データをどう分析いくかを勉強して、店舗に限らず色々な分野に生かしていきたいと思っています。
ーーこういった実験店舗を、他社や他ブランドとも展開されていくご予定はありますか?
構想では、もっと地方にも出て行きたいと思っています。原宿で得た結果が、地方でどう活きていくのか。例えば、羽田未来総合研究所様と組んで地方の空港に展開するのもいいですし、色々とできることがあるならやっていきたいと思っています。私たちがリアルの店舗運営しようということは考えておらず、パートナー企業様に提供していくという形です。
顧客との強固なエンゲージメントを目指して
ーー来店されるお客さまからの反応はどうでしょうか?
商品に対して「面白い」というお話はしてくださるのですが、ショールーミングスペースとしての面白さについては、エンドユーザーの方は気がつかないのかなという印象です。
「JAPAN CITY GUIDE」というアプリも提供しており、今後に向けては、このアプリとセンサーやビルのサイネージとショールーミングスペースを組み合わせることを模索しています。実際にアプリを通じてお客さまにはリコメンドが届くようになると、ショールーミングスペースとしての仕掛けを色々と意識してもらえるかなと期待しています。
ーーこういった技術の普及により、実店舗の役割はどのように変わっていくと思われますか?
店舗はモノを買いに行くだけの場所ではないですし、買い物にきた人にとっても、例えばインバウンドであれば商品に対しての日本のおもてなし、接客に対してのおもてなしと様々な面があって、実店舗は成り立っていると思います。そういったおもてなしを体験する場というのは、店舗の役割であるのだろうなと思っています。
また、お店側にとっても商品を売って終わりではなく、顧客とのエンゲージメントをどう作っていくかということも課題だと思います。今回の「HARAJU Cross」のように顧客データをとるのか、会員制にするのか、様々な方法が考えられますが、今後、何らかの形でデータを取得する店舗は増えていくと考えています。D2Cブランドのようなデータを商品開発にすぐに活かせる形態も増えていますし、モノを売らない店舗というのも最近は注目されています。色々な形態の店舗が出てくるのではないかと思っています。
ーーそこで何か、コロナの影響を感じた部分はありますでしょうか?
コロナの影響で興味深かったのが、ロボットや仮想空間でのアバターへの注目が高まったことです。NTT東日本は「Sota(ソータ)」というコミュニケーションロボットを提供しているので、店舗にSotaを設置して、ロボットで対応するのも面白いかなと思っています。
ーーバーチャルでの取り組みと実店舗の拠点を結びつけて新しい体験をつくっていくということですね。
同時に、店舗って難しいなとも思いました。天気が悪いと人はこないし、土日は人は来たと思うけれども売り上げに結びつかない時もある。そういった現実をデータで捉え、面白い取り組みを生み出していきたいと思っております。
ーーありがとうございました。
アフターコロナで実店舗運営の在り方が問われるなか、顧客との強固なエンゲージメントを形成することがより一層求められる。そこでは、顧客のニーズを正確に把握することが重要となる。必要なのはどういったデータか、またそのデータをどう分析し、活用していけばいいか、探求が求められるだろう。「HARAJU Cross」はデータソリューションを活用した実店舗の先駆的な取り組みとして、実店舗の可能性を拡げていく試みであった。今後の展開にも注目していきたい。
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