NASA史上初のファッション展示「(RE)Connect」がもたらす宇宙空間のコミュニケーション革命
人の関心はイマ、宇宙へと向けられている。現在では「スペースX」および「テスラ」の共同創設者/CEOであるイーロン・マスクをはじめ、多くの民間経営者たちが大気圏の先にある無限の空間に想いを馳せているが、そんな宇宙開発の歴史を作ってきたのが、他でもない「NASA(アメリカ航空宇宙局)」だ。そして、この地球観測の功労者たちが日々働く「NASA」のヒューストン宇宙センターにおいて、スマートテキストタイルのパイオニアである「Jasna Rok Lab」が、宇宙空間における人間のウェルビーイングに関連する先進的な展示を行った。
未だかつてないコンセプトで、イノベーティブなファッションを追求
「Jasna Rok Lab」は、ヤスナ・ロケゲン氏が代表を務め、テクノロジーと科学を応用したイノベーティブなファッションを追求するベルギー史上初のファッション・テック・デザイン・ラボである。彼女たちの先見性は、ファッションという文化から新たなソリューションを開発する未知なる可能性を秘めており、世界中のテクノロジー関連企業とパートナーシップを締結することで、いまだかつてないプロダクトを開発している。
宇宙空間においてもファッションテックが活用できることの提示
Image Credit : Jasna Rok
ロケゲン氏が「NASA」を訪れたのは、2018年11月のこと。彼女はベルギー人史上初、そしてヒューストンで開催された「クロス・インダストリー・イノベーション・サミット」において、史上最年少で基調講演をした人物である。以降、宇宙空間で共感的コミュニケーションの実現に取り組む彼女は、数々の「NASA」の研究施設を訪れては科学者たちと宇宙服の可能性についてディスカッションを行い、「NASA」のCTOであるダグラス・テリアー氏も将来的なコラボレーションを模索するために直接彼女と会談の場を設けた。
そんなロケゲン氏が出展した「Bionic Me」とは、人々の経験や世界との相互作用に進化をもたらす革命的なテクノロジーエキシビションであり、無論、彼女はアーティストとして唯一、この権威ある展示に参加した。
Image Credit : Jasna Rok
彼女が展示する感情知能を有するファッションピース「(RE)Connect」は、アーティスト・イン・レジデンスとして「Nokia Bell Labs」にて制作された。このクリエイティブについて、以下のコメントが寄せられている。
「もし、我々が宇宙旅行をすることになれば、自身の感情やこれまで築き上げてきたものへの影響を考慮しなければなりません。我々が考えるメンタルヘルスは、同観点をクリアする上で最も重要なピースとなるはずです。ヒューマナイジング・テクノロジー。これは地球上のみならず、宇宙空間においても、健康的な精神状態を維持するためにファッションテックが活用できるということを提示することになるでしょう」
感情をファッションへ変換し、可視化する
Image Credit : Jasna Rok
そもそも、宇宙空間において、なぜウェルビーイングが考慮されるべきかについて説明しよう。宇宙飛行士は、ごく少数の人々と閉鎖的な空間の中で数ヶ月、場合によっては数年間も滞在をしなければならない。また、家族や友人など大切な人とのコミュニケーションも大幅に制限され、地球へ戻りたいという気持ちが日に日に強くなってくる。
このような感情が精神衛生面でどのような影響を及ぼすかは解明されていないが、精神面でのウェルビーイングに大きな影響を与える証拠が多数存在している。心理学、神経学、社会学の側面からの研究は進んでいないものの、うつ病、孤独感、不安、ストレス、対人関係の葛藤などは、宇宙飛行士ならびに未来の宇宙旅行者が直面する可能性が非常に高い問題である。だからこそ、これら宇宙空間における精神的な影響の研究は、将来的に宇宙旅行を成功させるために必要なステップなのだ。
「(RE)Connect」は、人間の感情を増幅させ、新たな共感的コミュニケーションを創造する初の感情識別子である。この発明は、発言から感情を識別・追跡し、これらの感情をファッションへと変換することで、感情的な変化や反応を可視化することができる。これにより、着用者本人および周辺環境にリアルタイムで視覚的かつ触覚的なフィードバックを提供することができるのだ。
抽象的な説明だと、イメージがつきにくいかもしれない。しかし、読者の多くが日々使用しているメールやLINEに話を置き換えてみよう。これら文字ベースのコミュニケーションでは、感情を伝えづらく、同時に相手の感情も汲み取りにくい。しかし、我々は絵文字や顔文字、スタンプといった機能を活用して、この感情表現の壁を打破しているはずだ。宇宙空間では、地球上以上に個人間に物質的かつ精神的な“距離”が存在する。「(RE)Connect」は、このような宇宙空間のコミュニケーションにおいて、絵文字や顔文字と同様の機能を果たすテクノロジーである。
化学や技術とファッションの適応のために日本企業も協力
Image Credit : Jasna Rok
先に記したとおり、宇宙では空間的な制約があるため、所持品の持ち込みはかなり限定的となる。しかし、宇宙への長旅に宇宙服が必要不可欠であることに変わりはなく、様々な精神的な問題が発生する可能性がある以上、宇宙服へのウェルビーイング機能搭載は絶対条件と言える。
また、本プロジェクトには空気圧制御機器メーカーの「SMC」と音声感情解析AIを開発しているグローバル・スタートアップ「Empath」という日本の企業2社が携わっている。前者は同社の得意分野である空気圧のシステムを提供。また、後者はロケゲン氏らが利用しているソフトウェアの開発会社だという。同氏は「日本企業の協力なくして本プロジェクトは成功しない。心から感謝を申し上げます」と伝えている。
さらに、ロケゲン氏は、
「地球上にデジタルの双子を作り出してみてください。そうすれば、あらゆるタイプの健康状態をモニタリングして学習することができ、宇宙旅行のパイオニアたちに肉体的かつ精神的な予習をしてもらうことができます」と語った。
「Jasna Rok Lab」は、ヒューマン・インタラクションを新次元へと押し上げるべく、科学や技術をファッションに適応する方法を探し続けている。そして、業界を超越したイノベーションの共有と融合により、我々が夢見ていた宇宙との共存は日に日に現実に近づいているのだ。
TEXT:Meiji
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