【特集・コラム】ファッションウィークとオンラインの付き合い方(倉田 佳子)
倉田 佳子(Yoshiko Kurata)
ファッションジャーナリスト/コーディネーター
1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、Fashionsnap.com、HOMMEgirls、i-D JAPAN、STUDIO VOICE、SSENSE、VOGUE JAPANなどがある。CALM&PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。
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「いまは来ちゃダメ!」と中国の友人たちから連絡をもらったのは、2月頭のころ。旧正月が終わった時期に、はじめて北京、上海以外にも成都と杭州まで足を運べると意気揚々としていた私と違って、彼らの声は緊迫感があった。ギリギリまで粘ってみたが、状況は悪化するばかりで予定をすべてキャンセルし、「とにかく元気でね。また会えるの楽しみにしてるから」と返事を残す。もちろん、お互いに3月中旬に開催予定だった上海ファッションウィークで会えるかは明言できなかった。
そうして次第に、日本にいる私にもアメリカやヨーロッパの友達からも同じように励ましのメッセージが来ていた時間は一瞬で、世界中のみんなで一致団結しようというムードになる。いまこうして改めて書き出すだけでもあっという間の数ヶ月だったこと、そして刻々と状況が変化する中で 上海ファッションウィークがアリババとオンライン開催に踏み切ったことには驚く。
と言っても、東京ファッションウィークのスポンサーが楽天であるように、上海ファッションウィークもアリババグループ傘下「Tmall」をスポンサーに、以前からオンラインでの連動や国外へのファッションウィーク参加に向けて若手ブランドを支援するなどの取り組みは行なっていた。
しかし、だからこそスポンサーとしてこの状況下でどこまで力を発揮できるか、そしてブランド側もどのようなコンテンツで代わりをつくれるか数週間で形にしたことは見逃してはいけないように思う。
上海ファッションウィークについて
いくつかオンライン上で行われていたコンテンツを紹介する前に、まずは 簡単に上海ファッションウィークの説明をすこし。
通常であれば 上海ファッションウィーク期間中に、ショー会場が2つ設けられる。1つは、2001年から上海の中心地である新天地で行われているメイン会場。しかし、会場付近には変なスナップ隊がいたり、賑わいも程々なムード。
近年の「中国のファッションシーンが面白いらしい」という盛り上がりをつくっているのは、2つめの会場であるプラットフォーム「LABELHOOD」。2009年にもともとセレクトショップから活動をスタートし、2016年よりショーやイベントを行うプラットフォームとして、Netflix の「Next In Fashion」に出演していたAngel Chenをはじめに、SHUSHU/TONG、Susan Fang、STAFF ONLYなどを数々の中国人デザイナーを輩出している。毎回会場を変え、中心地から1時間かかる辺鄙な場所で行うにも関わらず、多くの若者が集まり、そしてメイン会場と異なる特性だが、オフィシャルイベントとして開催している点も面白い。
ファッションウィークは一方的なものなのか?
「LABELHOOD」がなぜそんな業界だけではなく、多くの若者を辺鄙な場所まで集められているかというと、常に「みんな」に向けてのプラットフォームであり続けているから。それは、上海でビジネスの話をする中でも感じるー「大多数」に向けてコンテンツをつくっているという意識でもある。
例えば、LABELHOODではフィジカルにショーを行う場合、各ショーを業界向け/一般向けの2回公演で行い、間の時間ではワークショップを開くなど人々を巻き込む間口を常に広げていた。時に、人気なブランドのショーであれば警備員が総動員するほどの人だかりができる。
そんな彼らが今回 Tmallと3月24日〜30日の期間で発表したオンラインファッションウィークも、また能動的に「みんな」を巻き込むコンテンツであふれていた。
アプリ内でLABELHOODの店舗を検索したトップ画面のメインビジュアル
オープニングでは、ファウンダー・Tashaによるトークから始まる。毎回LABELHOODはイベントを包括するテーマを設けるのだが、今回は「REALITY LIFE」がテーマ。
オンラインファッションウィークの舞台は、TmallもしくはTaobaoのアプリ内。まずはオープニングとして、ファウンダーのTashaによるトークイベントから始まり、同じタイムライン上に、バーチャルショーの映像配信、S/SとA/Wアイテムを紹介する通販番組やトーク映像配信、そして映像で紹介したアイテムなど さまざまなコンテンツが並ぶ。
ここ最近InstagramLIVEでも、S/SアイテムとA/Wアイテムの紹介や、Likeや質問を通して能動的にファンとコミュニケーションを取る映像配信は行われている。Taobaoでもその機能はもちろんあるが、そこに商品購入までの導線があることでファンからの満足感もブランドへの経済的なサポートもより一層高まる。アイテムをタップすると説明している場面に飛んでくれるのもありがたい。
S/SアイテムとA/Wアイテムをどちらも一気に紹介するフラットさ
あくまでもファッションウィークをオンラインに移したと言っても、オンライン上での付き合い方として映像配信だけに終わらず、お客さんがリアクションできる環境も生かしたことは、LABELHOODの初期からのスタンスと相性が良かったように感じた。
そして、これから世界各国が映像配信をきっかけとしたセールスプロモーションの仕組みを考えるときの一つのヒントにもなるかもしれない。
中止の代わりに行ったバーチャルショーで4万人の視聴者数
Netflix 「Next in Fashion」に出演していた中国人デザイナー・Angel Chenも、同じくLABELHOOD内のコンテンツとしてバーチャルショーと通販番組を行った。
本来であれば参加予定だったミラノファッションウィークは中止となり、ついに国内でのショーも雲行きが怪しくなった3月頭の段階で、すぐさまバーチャルショーへ初挑戦することを決断。
今回のコレクションのインスピレーションになったアニメ「AKIRA」の世界観と現実世界を照らし合わせ、約6分ほどのストーリー性のあるバーチャルショーの映像配信を行う。
LIKE数がすごいことに。ショーの動画は、weiboでも見れる。
一般的にファッションブランドがライブ配信しても、視聴者数はだいたい想定できる数だが、彼女の場合は、なんと総数4万人の視聴者が集まったという。Netflix でのプロモーション効果も大きかったとはいえ、それ以前からすでにカリスマアイコンとしてデザイナー自身、国内で人気を得ていたことから、今まで築いてきた「ファンコミュニティ」がここでしっかりと数として現れたように思う。
そのブランドの特性を自身で理解している様子は、バーチャルショーの配信が終わって、1時間ほどデザイナー本人によるアイテム紹介や、ファンとのQ&Aをライブ配信していたことからも見受けられる。また、バイヤー向けにはショールームからビデオでセールスを行うなどコミュニケーションを密に行う機会を増やしていた。
デザイナー本人や友人たちによる賑やかな会は1時間ほど行われた。
ブランドやデザイナーのスタイルにもよりけりなので、一概に言えることではないが、彼女のようにデザイナーとファンの距離感が近い場合は、国問わず実践できるアプローチかもしれない。オンラインに移行したからと言って、結局いままでフィジカルで積み上げてきたものが無駄になることはない。むしろ、今後どのプラットフォームで発表したとしても、今までブランドとしてどれだけファンとのコミュニケーションを取ってきたか、巻き込み方をしてきたか ー ブランドのベースメントが結果へと現れてくるように感じた。
今後へのさらなるヒントとなる没入型「体験」のショーケース
といえども、ショーやブランドの世界観を映像で見せる手法は、これまでも使われていたツールでもある。デザイナーが前にでないタイプのブランドもある中で、2020年のオンラインファッションショーであれば、もう少し世界観を「体験」をしたいところ。その体験を推し進めたのが、上海を拠点にブランドサポートを行うプラットフォーム「XCOMMONS」が見せたショーケース。こちらは先ほどのLABLEHOODの「大多数」に向けてとは逆で、期限付きのプライベートリンクで発表。
リンクを開くと、クリエイティブエージェンシー・InterCreative United によって再創造された上海にある複合施設・COLUMBIA CIRCLEの景色が広がる(1920年代に建てられた欧風建築)。パートナーシップはアリババではなく、ICYと組んだとWWDニュース記事には書いてあるけれど、特に詳細は出てこず・・・・。
そこから3ブランドーXu Zhi、Andrea Jiapei Li、Roderic Wongのそれぞれコレクションテーマに沿った部屋が用意されている(雑誌「ELLE」の看板広告が妙に現実感を出す)。
それぞれの部屋では、キャンペーンフィルムとショーの映像が観れるようになっていて、かつどちらもストーリー性のある映像になっているところがオンライン発表ならではのような気がする。
ここでは特に服をその場でオーダーするところまでの「体験」はできないが、代わりに360度の景色と音楽による没入型「体験」は感じられる。もしここにTaobaoで用いられていたような購入への導線があったり、もしくはリンクを開くまでのコミュニケーション的な仕掛け、インビテーションなどに五感をより擽るギミックがあったら、など詰まる所私たちの感覚を揺さぶるものは一体なんなのか想像してしまった(VRゴーグル一択ではない「体験」させるもの)。
もちろんどんなにツールに溢れていたとしても、2019年までしきりに「体験型消費」を推奨していた中で、急にバーチャルで同じ体験を作り上げられるか/感じられるか不安は残る。正直、わたしもどんなに映像で世界観と服の輪郭が写真よりも伝わってきたりしても、なお画面上だけでは物足りなさは感じてしまう。それは一度 フィジカルに体験したことの”感動”だったり”楽しさ”を覚えているから。ファッションウィークだけではなく、それはあらゆる場所にも街にも言える。
次のシーズン、ロンドンファッションウィークが発表しているように世界各国のファッションウィーク、そしてショップや場所でもオンラインの施策が問われる時代が強制的にやってきた。上海ファッションウィークでの取り組みをみて、能動的に没入できるプラットフォームがあるに越したことはないが、結局のところ、「コミュニケーション」というのが人を”安心”させ、感覚を揺さぶり、楽しませるひとつのトリガーなのかもしれないと感じた。
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