タンパク質が持続可能な繊維へ。ノースフェイスとスパイバーからダウン「ムーンパーカ」発売
THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)を有するGOLDWIN(ゴールドウイン)から、人工合成クモ糸で有名なSpiber(スパイバー)と共同開発したアウトドアジャケット「MOON PARKA(ムーン・パーカ)」が2019年12月12日に発売されることが発表された。
MOON PARKAは、主原料を微生物による発酵プロセスによりつくられた構造タンパク質「ブリュードプロテイン」を使用し、市販される世界初のアウトドアジャケット。
50着限定の抽選販売で、8月29日18時から特設サイトで購入申し込みの受付を開始、税抜15万円で販売されている。
Spiberとは?
山形県鶴岡市にあるSpiberは慶應義塾大学のクモ糸人工合成の研究を活用するため2007年に設立された企業。人工合成クモ糸繊維「QMONOS(クモノス)」で有名だ。
SpiberとTHE NORTH FACEのコラボは今回が初めてではない。
2015年にMOON PARKAのプロトタイプを発表した他、今年8月下旬にもブリュードプロテインを使い世界で初めて市販されたTシャツ、「Planetary Equilibrium Tee(プラネタリー・エクイリブリアム ティー)」を予約販売し、完売させたばかりだ。
合成タンパク質素材はここ最近注目されており、YUIMA NAKAZATO(ユイマ ナカザト)は2019-2020AWコレクションでブリュード・プロテイン素材を使用したルックを発表。さらにSACAI(サカイ)も2020年春夏パリ・メンズ・ファッション・ウィークのランウェイでSpiberとコラボしたTシャツを発表、2020年に販売する予定だ。
これほど注目される合成タンパク質素材だが、一体何がよいのだろうか?
Image Credit : sacai,Spiber
タンパク質が繊維に?
現在アウトドアウェアやスポーツウェアをはじめとして多くのファッションアイテムはポリエステルやナイロンといった合成高分子材料が使用されている。それらの原料は石油だが、石油には今後50年程で枯渇の可能性があるという。また環境への負荷も心配されている。
一方クモの糸を始めとしたタンパク質は持続可能な資源な上に、ナイロンのように伸び縮みし、鋼鉄の340倍強靭である。そのため新しい繊維として注目されている。
例えば、クモの巣以外にもノミやバッタの関節の成分であるレシリンは非常に高い弾力性をもち、シロアリの顎はタンパク質と金属の複合素材のような成分でチタンと同じくらいの硬度がある。これらのタンパク質を人工的に合成することで、強度、弾力性、耐久性、柔らかさなどの優れた繊維をつくることができるのだ。
合成タンパク質素材は素材業界にとって50年ぶりの大発明といわれる画期的なもので、ファッションの他、自動車や宇宙産業への利用も期待されている。
タンパク質素材、量産化の壁
しかし合成タンパク質素材を製品化するのは簡単なことではないという。
SpiberとTHE NORTH FACEがコラボして2016年内の発売を予定していたMOON PARKAは糸が水を吸うと縮むなどの問題が発覚。品質が安定せず、量産体制も整わなかったことから製品化が2017年以降に延期されていた。
またそもそもクモの糸を採取することは、羊からウールを採取したり、牛からミルクを採取したりすることほど簡単ではない。量産化できるほどクモの糸を採取しようとすると、クモが共食いをしてしまうなどの問題がある。
コスト面も大きな壁があった。ポリマーが数10億ドル以上の普及をするためには1キログラム20〜30ドル以下、100億ドル以上の普及には1キログラム10ドル以下を目指す必要があるのに対し、タンパク質の製造コストは1キログラム100ドルを下回ることは困難だろうと言われているのだ。
クモの糸を着る時代に
これらの理由から2017年以降製品化が延期されていたSpiberとTHE NORTH FACEのMOON PARKAだが、ついに今年中に発売されることが発表された。1キログラムあたり40~50ドルまで下げられるメドが付いたというSpiberは2021年からタイの工場を稼働し、量産化を目指す狙いだ。
また人工クモの糸の合成タンパク質素材を製造する会社としてはSpiberの他に、アメリカ・サンフランシスコ創業のスタートアップ企業「Bolt Threads(ボルト スレッズ)」がある。酵母を用いて合成したタンパク質の繊維「MICROSILK(マイクロシルク)」はこれまでに2億ドル(日本円で約226億円)以上の資金調達に成功、既にSTELLA McCARTNEY(ステラ マッカートニー)とパートナーシップを発表、ADIDAS BY STELLA McCARTNEY(アディダス バイ ステラ マッカートニー)からスポーツウェアを発表している。
ゴールドウインの渡辺貴生副社長は財経新聞の取材で以下のようにコメント。
「さらに研究を進め、25年ごろまでにアウターやTシャツ、シューズなどへも拡大させていきたい」
今後当たり前のように人工クモの糸やタンパク質を着る時代がくるかもしれない。
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