五感を補助するウェアラブルデバイス、福祉領域の活用から普及する可能性
スマートウォッチはすでに定番のガジェットとなりつつあるが、スマートグラス、スマートリング、スマートジャケットといった、その他のウェアラブルデバイスは、未だ普及しているとは言い難い。その大きな理由のひとつに、スマートフォンで事足りてしまい、ウェアラブルデバイスならではの機能が見出されていないことがあげられる。
そのような状況のなか、医療福祉の現場でウェアラブルデバイスが注目されている。今回は、テクノロジーを活用し、ハンディキャップを抱える人たちの生活をサポートする可能性のある3つのプロダクトを紹介していこう。
The Sound Shirt
Image Credit : CUTECIRCUIT
ロンドンのウェアラブルテック企業CUTECIRCUITは、聴覚障害を抱える人でも、音楽を楽しむことを可能にするウェアラブルシャツ「The Sound Shirt」を開発。このデバイスを着用すると、音を振動として肌で感じることができる。以下の動画では、聴覚障害を抱える人たちがThe Sound Shirtを着用し、ユンゲハンブルク交響楽団の演奏を楽しむ様子が紹介されている。音楽をすべての人に届ける、そんな未来を実現しているのだ。
Image Credit : YouTube by Junge Symphoniker Hamburg
The Sound Shirtには、振動装置であるマイクロアクチュエータが16個装備されている。舞台上に設置された複数のマイクが楽器の音を拾い、ソフトウェアによってデータに変換。それをマイクロアクチュエータが、ワイヤレスでリアルタイムに受信する。バイオリンの音は腕、ドラムの音は背中など、楽器の種類や音域に分けて、身体の各部位で感じ取れる仕組みになっている。
素材は柔らかいストレッチ生地。生地に描かれた波紋模様は、異なる周波数で変調する音波と振動を表現し、そこから伸びる曲線はネットワークを表している。
echo wear
Image Credit : YouTube by echo project
ダイアログ・イン・ザ・ダーク檜山晃、Rhizomatiks Research(ライゾマティクスリサーチ)真鍋大度と石橋素、そしてANREALAGE(アンリアレイジ)森永邦彦が製作した、視覚以外の感覚を通して空間と呼応する服「echo wear(エコーウェア)」。このプロダクトは、人間が暗闇の中を歩くとき、手探りで物との距離を測り空間を認識するように、視覚障害を抱える人が、視覚以外の感覚を用いて自分がいる世界を認識することに着想を得ている。
echo wearには、2つのセンサーと3つの震電子、震電板が搭載されている。10m先の物体が振動で伝わり、着用者は空間を認識。目が見えない状態でも歩くことが可能となる。
開発には、様々なテクノロジー技術を活用。センサーの発信、受信、振動部分は、Rhizomatiks Researchが電子回路からアプリケーションまでを担当。またウェアには、Xenoma社が提供するスマートアパレル「e-skin」を採用、優れた機能と着心地を実現している。また、三井化学株式会社のアブソートマー素材を用いられており、体温によって熱変性し、服が身体にフィットして振動を受信するようになっている。
OTON GLASS
Image Credit : OTON GLASS
視覚障害を抱える人にとって、点字や音声は情報を得るために重要な手段だが、あらゆる場面で用意されているとは限らない。そこで開発されたのが、文字を音声で読み上げてくれるメガネ型デバイス、OTON GLASS(オトングラス)だ。
Image Credit :OTON GLASS
OTON GLASSは、本体ユニット、カメラモジュール、HDMIケーブルの3つだけの構成であり、持ち運びが簡単。使用方法はまず、カメラモジュールを眼鏡のテンプル部分に取り付け、HDMIケーブルで本体ユニットと接続。読みたい文字に顔を向けてボタンを押すとカメラが文字を撮影、本体のスピーカーから音声で出力される。イヤホンやスピーカーに接続することも可能だ。
レイアウトが複雑なものは読み上げることが難しいようだが、郵便物の宛名や、公共料金の領収書、冷凍食品のパッケージ、文庫本なども読み上げ可能だ。視覚障害を抱える人の生活の利便性を、格段に向上してくれる。
高齢化社会に向けて、高まる需要
このようにテクノロジーを活用することで、生活の不自由さを減らすだけでなく、生活の楽しみを広げることが可能に。こういったデバイスは、生まれつきの障害がある人だけでなく、私たち誰もが将来的に直面する、加齢に伴う視力や聴力の低下、それによる生活の不便さも解決してくれるだろう。
日本では2025年に高齢者の割合が人口全体の約30%になり、医療福祉分野の重要性は高まっていくのは確実だ。今後、ファッションテックは医療福祉分野にも広がり、そこをきっかけに普及していく可能性もあるだろう。
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