デジタルドレスが100万円で落札、バーチャルファッションの価値とは
世界初のブロックチェーンで作成されたデジタルドレスが2019年5月、ニューヨークのEthereal Summitで9500ドル(日本円で約100万円)で落札された。iridescence(イリデセンス)と名付けられたデジタルのドレスを作成したのはスタートアップ企業のThe Fabricant、Dapper LabsとベルリンのアーティストJohanna Jaskowska。
2Dのパターン、3Dのデザイン、レンダリングソフトウェアを組み合わせてできたこのドレスは、基本的には画像の中でしか着ることができない。購入者は自分の画像を送ると、加工され、ドレスを着用した自分の画像が送られるような仕組みだ。
バーチャル上でしか着れないドレスが約100万円で売れた、一体このニュースは何を意味しているのだろうか。
バーチャル市場の拡大
今回のニュースで、バーチャル上でもファッションにお金を費やし自己表現をすることにニーズがあることが考えられるだろう。
バーチャルと現実の境目が曖昧になりつつある今、バーチャルインスタグラマーのLil Miquela(リルミケーラ)はファッションアイコンとしてCALVIN KLEIN(カルバンクライン)のプロモーションモデルに抜擢されている。またバーチャルの中だけで完結するファッション市場も徐々に拡大している。
バーチャル空間を舞台にしたオンラインゲームSecondLife(セカンドライフ)の中にはアバターウェア専門のファッションマーケットがあり、過去15年間で20億個のバーチャル商品を作成され、5億ドル(日本円で約535億円)規模の経済を誕生させたという。中には数百万ドルを売り上げたアバターウェアデザイナーもいた。
TECHSPOTの記事でも、Z世代といわれるような若者にとっては、ソーシャルゲームFortnite(フォートナイト)内でレアな服を着用することは、現実で高級ブランドの服を着るのと同じくらいステータスとなっていることが示されている。それに便乗したように今年の5月にはNike(ナイキ)がFortnite内で期間限定の商品を発表した。
Image Credit : Fortnite
こうした現象から、現実で必死に稼いだお金で高級ブランドの服を着るように、バーチャル上でもお金を出してまで着飾ることが当たり前になるのかもしれない。
そしてファッションブランド側もバーチャル上でしか販売しない商品をだすことや、そもそもバーチャル上でしか存在しないファッションブランドがでてくることもあり得るだろう。
ブロックチェーンとファッションの親和性
また今回のドレスにはブロックチェーンが活用されたことで、ドレスの希少価値が上がった可能性がある。ブロックチェーンはファッションアイテムを所有した時に感じる気持ちの高ぶりをより高めてくれる効果があるのだ。
その理由の一つは、ブロックチェーンは偽造品の防止ができるからだ。
ブロックチェーンでは情報が分散的に保存され、変更が不可能である。そのため偽造品を防止できる他、アイテムの原材料から販売店に至るまでの一連の流れを追跡することでトレーサビリティを担保することも可能だ。
この機能は、バーチャル上のアイテムなど本物であることを証明しづらいものにも使えるだろう。
もう一つの理由は、ブロックチェーンが1枚1枚の服に意味をもたせることができるからだ。
ニューヨークと上海を拠点にしたファッションブランドBABYGHOST(ベビーゴースト)は、2017年の春夏コレクションでブロックチェーンを活用し消費者に1枚1枚の服の背景を伝えた。
Image Credit : VeChain
アイテム毎にNFCチップが埋め込まれており、ユーザーはスマホをかざすことで生産地の他、デザインコンセプト、ブランドストーリーなどを知ることができた。そしてBABYGHOSTはユーザーにブランドへの理解を深めてもらうことや、1枚1枚の服に愛着をもってもらうことに成功したのだ。
Imagine that each garment now goes from being one of many to a one of a kind. It can literally speak to our fans similarly to the way that we love communicating with them via social media.What VeChain has done with BABYGHOST is bring digital experiences to their consumers and enable them to build up a personalized connection with the products they own.
(たくさんある服の1枚が一点物になることを想像して下さい。私達がソーシャルメディアでファンの方々とコミュニケーションをするように、服自体がファンの方々に話しかけられるようになるのです。ブロックチェーンは1枚1枚の服から消費者の方々に、デジタルでパーソナルな繋がりを提供することができます。)
BABYGHOSTのCEOは2017年の春夏コレクションに関してこう語っている。
ブロックチェーンは、商品が本物であるという事実や製造された背景などを知ることで、商品へ付加価値を与えられるのかもしれない。
またバーチャル上のドレスは本物であるかどうかを証明しづらかったり、簡単に複製できるため希少価値が下がりやすいという欠点がある。しかし今回のデジタルドレスiridescenceのようにうまくブロックチェーンを活用すると、そうした欠点をカバーすることができるだろう。
バーチャルファッションが与える影響
今後はバーチャルのファッションが現実のファッションに影響を与える可能性が高い。
今回のバーチャルのドレスでさえ通常の衣服を作成する時に使われる2Dパターンを用いて作成されているため、そのパターン画から実際に着れるドレスを作ることも可能だからだ。
2019年4月に発表されたpixiv株式会社のアバターウェアを作るプロジェクトVroid Wearでchlomaとコラボし、同じデザインのアバターウェアと人間用ウェアを販売した。その時はアバターと同じデザインの服を現実でも着る人がいたことで注目されたが、バーチャル上のファッションの重要性が増せばそうした現象は当たり前のものとなるだろう。
Image Credit : pixiv
バーチャル上のファッションはいわば現実での制限がない自己表現だ。
そのため、市場も性別や体型など様々な価値観に縛れることなく、いくらでも拡大することができる。結果的にバーチャルのファッションが現実のファッションに影響を与え、市場規模も現実を超えたものになるかもしれない。そう考えるとバーチャル×ファッションは今後ファッションテックを語る上で、見逃せない価値観となっていくだろう。
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ZOZO研究所では、ファッションに関する研究を行っております。
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