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デッドストックを用い、デザインから生産管理までを一括管理へ: SupplyCompassの提案する循環型プラットフォーム

SupplyCompass(サプライ・コンパス)は、ロンドン発の製品開発と生産管理のプラットフォームを提供するPLMスタートアップだ。当社が提供するプラットフォームは、自社特有の工場とのネットワークを基盤に、現在、クライアントとなるブランド向けにデザインから生産管理までを含む管理を可能としている。そして、今後、生産工場から販促までの全てを含むサプライチェーン全てを包括する基盤のプラットフォーム開発を視野にいれ、目下進行中だという。持続可能なサプライチェーンの実現に向け、デッドストックを用いた製品デザインを始め、サプライチェーンの迅速化を促すプラットフォームを提供しているSupplyCompassの共同創業者の1人である、Flora Davidson(フローラ・デイビッドソン)氏にインタビューを行った。

企業の背景、インドで培った工場との関係

Flora Davidson(フローラ・デイビッドソン)氏は創業前、イノベーション・コンサルタントとして、数々の大企業の製品開発の戦略を手助けしてきた背景を持つ。前職で消費者調査を行ううちに、消費者がサステナビリティ、トレーサビリティ、トランスペアレンシーといった持続可能性に対する企業のアプローチや製品の背景をより敏感に受け取るようになった動向の変化から、サプライチェーンに焦点を当てリサーチを始めたそうだ。リサーチを続けるうちに、より一層サプライチェーンに興味を持ち始め、現場で実際に何が起きているのかを知るべく、前職を辞め、共同創業者であるGus Bartholomew(ガス・バーソロミュー)氏とインドに渡ったという。

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共同創業者のFlora Davidson(フローラ・デイビッドソン)氏(左)と
Gus Bartholomew(ガス・バーソロミュー)氏(右)

約2年間インドに在住し、各地のマイクロファクトリーを渡り歩いたという彼らだが、現場での学びは現在のサービス構想の核となる部分を次第にかたどる重要な期間だったという。

「技術的な観点から新しくビジネスを始めるにあたって、現場で何が起きているのかを知り、関係性を構築することから始めました。そうでなければ、例えばロンドンのオフィスでソフトウェアを作ったとしても、間違ったものを作ってしまいます。工場との関係性の構築に最初の約2年を費やし、現在でも関係性の構築には焦点を当て続け、日々ネットワークを成長させています。」とデイビッドソン氏は語っており、現在ではインドとポルトガルを中心に、現地オフィスを設置し、関係性を継続して保つ体制を整えているそうだ。

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SupplyCompassの提携する工場の様子

SupplyCompassが現在提供しているサービスは、ファッションブランドとメーカー間の円滑なコミュニケーションを軸とした、製品開発および生産管理のプラットフォームだ。当社の持つグローバルなサプライチェーンをデジタル化することで、デザイン段階での素材の調達を始め、デザイン、生産、そして製品の管理までのプロセス全てを同プラットフォーム上にて可能にしている。これによりブランドは、デザインから納品までを全てこのクラウドベースのソフトウェア上にて完結でき、生産の進捗段階の管理のみならず、プラットフォームを通じたチーム内、さらには連携工場とのコミュニケーションも円滑に行えるという利点がある。

実際に、サービスを開発するにあたって、現場での学びに着想を得た後に、大小問わず1000以上の既存のサービスを分析したという。「1000以上のサービスを調査・分析しましたが、プロセスの重複は見つけることができませんでした。あるブランドのワークフローは、他のブランドにとって異なる意味をもつかもしれません。そのために、ターミノロジーを一括し、円滑なコミュニケーションを可能とする構造を与えることに注力しました。」

例えば、生産を請け負う工場は、毎シーズン複数のブランドを顧客としているが、それぞれのブランドが異なる手法を持っている場合、工場は生産管理より受注管理に時間を費やす結果になる。コミュニケーションのコストが発生している点において、SupplyCompassのプラットフォームの解決策は、ドロップダウンのメニューである程度の制限を加える、工場に一定のデータフォーマットでデータが送付される仕組みをつくる、といった構造を付与しているそうだ。

デッドストックを用いてリードタイムを短縮

現在提供されているブランド向けのサービスの軸は大きく2つあり、1つ目に、デッドストックの利用が挙げられる。ここでいうデッドストックとは、サプライチェーンの中で生まれるデッドストックであり、主に生産されたものの、衣服として使用されず余剰となった布地を指す。

サービスを導入するブランドは、プラットフォーム内のマテリアルライブラリーにアップロードされたデッドストックの生地の中から、使用したい生地を選択し、任意のデザインに適用することで、既に製品化された生地を廃棄することなく利用することができる。現在マテリアルライブラリーに登録されている生地は約400、その種類も幅広いという。例えば、Oceanworksとのパートナシップを通じたリサイクル海洋プラスチック由来の生地から、代替レザーといった新規素材が挙げられる。

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ブランド向けのプラットフォーム外観

2つ目の軸は、サプライチェーンを全てデジタル化することによるリードタイムの短縮だ。これを社内では「よりスマートに(SMARTER)」という概念として重要視しているという。これはつまり、既にある素材(デッドストック)を用い、全行程をプラットフォーム上で管理することによって、結果としてスピードアップを図ることだ。

「ブランドのデザインから納品までの平均的なリードタイムを見ると、9ヶ月になることもあると思います。しかしこれは決して早いとは言えないでしょう。そこで我々は、コレクション制作時のタイミングで入手可能な素材を使い、全プロセスをデジタル化し、『よりスマート(SMARTER)』な生産ー生産する人が、より賢く、よりスマートに、より小さなコレクションを生産を促すことを可能にし、結果として納期を近づけるコアとなるシステムの維持に力を注いでいます。」

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ブランド向けのプラットフォーム外観 その2

そして、SupplyCompassでは、2020年9月より米ニューヨークのマーケットプレイス・プラットフォームであるQueen of Raw(クイーン・オブ・ロウ)とパートナーシップを連携している。これにより、Queen of Rawのネットワーク内のブランドや製造業者は、SupplyCompassのプラットフォームとサービスを使用し、デッドストックの生地を用いたコレクションの制作が可能となっている。

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さらに、年明けには新たなサービスのローンチも控えているそうだ。「2021年1月にはブランドに向けた別のサービス利用として、プラットフォームのサービスのみをリリースします。これによって、ブランドは我々の持っている(サプライチェーンの)ネットワークのみならず、各ブランドの持つ現行のサプライチェーンにおけるデザインフローを我々のプラットフォームのサービスを通じて管理することができるようになります。」

サステナビリティの体現に向けて

最後に、新型コロナウィルスの流行による、アパレル産業におけるデッドストックへの懸念の増加の動向について伺うと、「この半年で10年間分の変化が起きたように感じています。目に見える変化ではないかもしませんが、ビジネス上での会話を通じて、持続可能性の対応の緊急性が強調されているように感じます。このようなパンデミックが起こる前に既にあった、私たちのビジネスの焦点であるデッドストックへのアプローチにおいて、ブランドやサプライチェーンのデジタル化への重要性を改めて認識させてくれました。」と返ってきた。その上で、同社が創業当初から実践している事業内容への周囲の理解が進んだともいい、市場がよりオープンになったことを受け、より安定したサービスの提供に向けた既存のネットワークの維持、サービスの整備の重要性を感じているという。

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共同創業者のFlora Davidson(フローラ・デイビッドソン)氏

さらに将来的なビジョンとして、現在はブランド向けのみに提供されているサービス形態の拡張、ゆくゆくは工場を含むサプライチェーン全体での使用を構想しているという。そして、それに向け、インドやポルトガルの現地スタッフや提携工場の生産者、提携ブランドのデザイナー・クリエイターへのユーザーリサーチを行いつつ、ユーザーのニーズに見合い、使用者にとって創造的かつ「楽しめる(enjoyable)」ツールへと開発を促進していくという。

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SupplyCompassの提携する工場の様子

「長期的なビジョンとして、業界にポジティブな変化をもたらすカタリスト(媒体)になっていきたいと考えています。サプライチェーンのエコシステムの核となるシステムを作り、ブランドが自分たちのビジネスのために、パートナーとなる工場を見つけ、一緒に仕事をする際の基盤となり、誰かのサプライチェーンで生まれた廃棄物が、他の誰かの製品の原材料となり、最終的にはサーキュラーな閉じられたループを作るといったようなことです。そして、これは業界のすべてのビジネスが孤立していては成立せず、共同(collaborative)かつ、集合(collective)な姿勢でのみ機能しうるでしょう。」

イノベーション事業を通じ培った興味から、現場に赴き、サプライチェーンにおける非効率性や問題の複雑性を実感し、解決策として包括的なアプローチを持ったサービスを提供するSupplyCompass。利害関係者が多く、入り組んだサプライチェーンの構造を、提案するプラットフォームを通じて、今後いかに整備しうるのだろうか。

text by Hanako Hirata

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