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機械学習とヒューマンタッチの複雑な絡み合い、パーソナライズされた購買体験「CROBOX」

2020年のLVMHイノベーションアワードで優勝した、アムステルダム発祥のリテールテクノロジー企業「CROBOX(クロボックス)」。創業開始から約5年、CROBOXはこれまでIKEA、UNDER AROMORやASICS等の大企業を始めとする約60の小売業者や企業を顧客に迎え、その勢いは増している。根幹となる技術は主に3つあり、そのうちの1つである「Dynamic Messaging(ダイナミック・メッセージング)」では、商品や顧客のデータを、行動経済学や心理学のナレッジを用い、よりひとりひとりのの顧客にカスタマイズされた商品の検索やレコメンドを促すシステムを構築している。今回、LVMHイノベーションアワードでオンラインプレゼンテーションを行ったJanelle de Weerd(ジャネル・デ・ウィアード)氏にインタビューを行った。

心理学・機械学習を応用した新たな購買体験の実装

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CROBOXは、2014年にオランダで設立されたリテールテクノロジーのスタートアップである。CROBOXの技術は、機械学習による画像分析およびテキスト分析、さらに顧客の購買行動のデータの分析と、社に在籍する心理学者によるヒューマンタッチの技術が絡みあい実装される、オンラインショッピングにおける購買体験を顧客ひとりひとりにパーソナライズするサービスだ。

「私たちの技術は、データだけを深堀するのではなく、ヒューマンタッチをいれることでいかに顧客の購買体験をデザインできうるのかを考慮した仕組みになっています」とウィアード氏は語っており、この技術実装を可能にするために、社内には機械学習エンジニアやデータサイエンティスト、データアナリストやWebエンジニアの他に、心理学者が在籍しており、常にデータと消費者心理やUXデザインの専門家の知識が交わる環境が整っているという。

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CROBOXの提供する技術は、大きく2方向に分けて考えることができる。第1に、フロントエンドとなる顧客向けには、カスタマーエクスペリエンスをよりユーザー個人個人に向けてパーソナライズすべく、商品検索の段階やそれぞれの商品ページなどで、「Dynamic Messaging(ダイナミック・メッセージング)」を採用している。これにより、顧客は探しているプロダクトの属性や行動的特性基づいた欲しい製品を見つけやすくなるという仕組みだ。

第2に、バックエンドとなる小売業者向けには、ダイナミック・メッセージングのテスト段階のクイックストリームデータを用いることで、顧客が製品の何を好んで購入しているのか、どのようなメッセージの作用が購買行動を促進させているのか、といった点を判断し、顧客がどのプロダクトのどこを気に入っているのか、もしくはそうでないのか、を判明させることができる。これにより、小売業者は、プロダクトのセールスポイントを考慮し、メッセージングの内容を精査できるようになるだけでなく、その後の販売品の展開を検討しやすくなるというものだ。

顧客ひとりひとりにカスタマイズされた「ダイナミック・メッセージング」を支える技術

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ダイナミック・メッセージングの技術背景の要因として、CROBOXがブログ等で強調しているのが、行動経済学のナッジ理論である。ナッジ理論とは「人々の考え方を理解することで、彼ら、家族、そして社会にとって何が最善かを簡単に選択できるようになる」*というもので、「肘をつつく」という意の、自発的な行動を促す効果をもたらすというものだ。CROBOXはこれを応用し、ダイナミック・メッセージングを通じて顧客の求めている商品や情報を提供し、前向きな購買体験を可能にしているのだ。

ダイナミック・メッセージングの実装技術は、顧客のコンテキストデータプロファイルと、さらに特定のウェブストアでの行動履歴に基づいて選定されているという。

「コンテキストデータプロファイルは例えば、『この顧客は東京からアクセスしていて、Facebookのリンクを踏んでウェブサイトに来ていて、かつ使用しているデバイスはiPhoneである』と言ったような情報です。プライバシーを考慮しているので、並行して閲覧しているウェブサイトやソーシャルメディアの情報は一切見ず、ウェブストアのイン・セッションのデータのみを使用しています。データプロファイルに加えて、どのぐらいの時間我々のウェブサイトを閲覧しているのか、どのような商品フィルターを使用して検索しているのか、と言った情報と組み合わせて、AIがソートを行うことで、ダイナミック・メッセージを投じる時間の設定や対象を詳細に分類し、瞬時に関連性の高いメッセージや商品を投じる、パーソナライゼーションが可能となります。」

ダイナミック・メッセージングの前段階にあたる、商品のアノテーションは、商品写真の画像分析と、商品説明の自然言語処理に基づいて行われており、それぞれタグ付けが行われている。これらの膨大なデータから、顧客のデータプロファイルに基づいて、何千とあるメッセージのリストから瞬時に選定されたメッセージが顧客に投じられるという、なんとも複雑な仕様がダイナミック・メッセージングを支えているというのだ。

過去のユースケースにはASICSなどスポーツメーカーもあるが、これに対しては、「例えば、スポーツ用のスニーカーはアイテムの機能性とは裏腹に、(ウェブサイトの写真だけでは)見た目が同じ様に見えてしまいます。この様に違う属性を写真を見るだけでは分からない属性を商品説明と写真のビジュアル属性と兼ね揃えることでパーソナライズされた購買行動を生み出すことができると考えています。」と説明してくれた。
商品写真だけでは違いが見出せない、デザインの違いをも、写真の属性だけではなく、ブランドから出された説明文とともにAIが解釈することで、より的確な顧客のニーズに答えることができるというのだ。

さらに、アムステルダムの地理的要因から、ヨーロッパに籍を置く企業と連携するうちに、国ごとの購買行動の違いが見えてきたという。これは、ヨーロッパ圏内での国ごとの歴史的コンテクストの違いや文化様式の違いから、同様のメッセージに対する反応が購買行動との結び付きを左右するというのだ。これらの事例から、顧客の購買体験を「ローカライズ」させ、より精細な「パーソナライズ」を目指すことが必要である、とウィアード氏は述べている。

LVMHイノベーションアワード受賞を経て

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LVMHイノベーションアワードを受賞してからの変化について伺うと、LVMH参加のメゾンとの協業に向けた取り組みが社内で始まり、夏の間かなりの時間をリサーチに費やしたという。そして、これまで連携してきた企業の顧客と、ラグジュアリーの顧客では、購買行動の大きな違いに気付いたそうだ。

「ラグジュアリーの顧客は、これまで協業してきたファストファッションの顧客とは異なり、『売り上げNo.1』や『限定品』といったメッセージングは求めておらず、購買行動の違いが明らかでした。むしろ顧客は、大きく2つの理由で購入しています。1つ目は、『ハンドクラフテッド』や『複数素材の使用』といったクオリティーの側面です。2つ目は、自己実現のために、『私はこうだから、この服を着る』や『この服を着て自分を示す』という、ブランドやアイテムの歴史やストーリーを購入している点です。」

そして現在CROBOXでは、次段階に向け、ブランドの歴史や顧客層のリサーチを徹底的に行いつつ、どうラグジュアリーブランドといかに協業していくのか、どのようにメッセージを打ち出すと効果的に購買体験を向上できうるのか、社内で検討段階だという。

「ラグジュアリーブランドは顧客や自社ブランドのことをよく理解しており、店舗でのコミュニケーションに長けています。しかし、デジタル空間において、その様な会話をどう行うのか、手探り状態である様に見えます。購買体験という点において、(これまでのダイナミックメッセージのように)短く、顧客に寄り添い、かつ、ブランドのこれまでのスタイルに合うメッセージをどう打ち出していくのか、これからラグジュアリーブランドと密に連携していき、試していこうと考えています。」

CROBOXの技術は、データを活用しつつも、人々の購買体験を感情側面や文化側面の文脈を含め、それらをまたデータとして利用する事で、より精細なパーソナライズされた購買体験を生み出す。オンラインへの需要が拡大するなか、今後我々の購買体験はいかなる変容を見せていくのであろうか。

* ナッジ理論 Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness uk_books_and_musicによる(詳細はこちら
** 2020年度LVMHイノベーションアワードのピッチセッションはLVMHの公式ページで公開されている。(Croboxは5分30秒付近からピッチを行っている)

text by Hanako Hirata

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