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ASICSとno new folk studioの共同開発で実現、スマートシューズが作るランニングの未来(後編)

ASICS(アシックス)が、スマートシューズ「ORPHE(オルフェ)シリーズ」の開発で知られるno new folk studio(ノーニューフォークスタジオ)とランナー向けのスマートシューズを共同開発。優れた走行効率を追求したEVORIDE(エボライド)をベースに、専用センサーのORPHE CORE 2.0を搭載した「EVORIDE ORPHE(エボライド オルフェ)」の先行予約が、クラウドファンディングサイトのMakuake(マクアケ)でスタートしている。

「目標タイムを達成したい」「自己流では限界を感じる」というランナーをサポートしてくれるというスマートシューズだが、具体的にどんなことができ、着用することでランナーはどんな恩恵が受けられるのか。そしてスマートシューズが実装されたランニングシーンにはどんな未来が待ち受けているのか。

no new folk studioのCEO/Founderの菊川裕也さんと、アシックス スポーツ工学研究所 主任研究員の猪股貴志さんへの取材から紐解いていく。

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左/猪股貴志さん(アシックス スポーツ工学研究所 主任研究員)
㈱アシックスに入社以来、スポーツ工学研究所でスポーツシューズの構造設計や機能コンセプト立案に従事し、一般向けランニングシューズの研究開発のほか、トップ選手向けのサッカースパイクやバレーボールシューズなどの研究開発に取り組む。専門はバイオメカニクスおよびデータサイエンス。
 
右/菊川裕也さん(no new folk studioのCEO/Founder)
2014年にno new folk studioを設立。2016年にLEDやモーションセンサーを搭載したスマートフットウェアORPHE ONEを発売し、話題となる。アジアデジタルアート大賞優秀賞、Music Hack Day Barcelona Sonar賞など受賞歴多数。

スマートシューズはランニングビギナーにやさしい

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EVORIDE ORPHEのベースとなっているシューズは、優れた走行効率を追求したASICSの人気モデルの1つEVORIDE。弓形にカーブしたソールデザインや、反発性に優れたミッドソール素材などによって、足首部の屈曲を減らし、足関節のエネルギー消費を減らすガイドソールを採用している。専用センサーのORPHE CORE 2.0は、ミッドソールの土踏まず部分に搭載されているのだが、それも試行錯誤の上で決まったもの。

「センサーをどこに搭載するかというのは議論しました。より信頼性の高いデータがとれるということで、ミッドソールに搭載することになりましたが、ASICSのランニングシューズとして発売する以上、シューズの機能性を損なうわけにはいきません。センサーをかなり小型化して頂きました。センサーは土踏まずのあたりに搭載しているのですが、設計の観点からいくと、ねじれたり曲がったりしてほしくない部分でもあるのです。ランナーの方がセンサーを外して走るときにそこが空洞にならないよう、スペーサーと呼ばれるEVAのスポンジを付属しています。また、シューズのアウトソールは通常はラバーなのですが、そこに樹脂のパーツを重ね、センサーを入れるスペースをとっても耐久性が落ちないような工夫もしています。もちろんセンサーから取得できるデータの精度に関しても、アシックス スポーツ工学研究所でテストをしています」(猪股さん)

ランニングコーチのような役割を果たしくれるEVORIDE ORPHEは、タイム向上を狙う中・上級のランナーが欲しいと思う機能を備えたシューズだが、ランニングビギナーにこそ履いてほしいシューズでもある。

「アスリートって、自分に対するセンシングが優れているんですよね。何かを意識したときに、どのようなアウトプットができるかっていうことを正確に捉えられるんですが、初心者にはそれが難しいんです。EVORIDE ORPHEは、ランニング中の動きを一歩ごとに測定して、リアルタイムに音声でフィードバックをしてくれます。自分の動きがどうなっているのか、意識を変えたことで変化があったのかなかったのかということがすぐにわかるので、フォームを作る段階にあるビギナーランナーの方にもぜひ履いてほしいシューズです」(菊川さん)

「ASICSには、トップアスリートから、ビギナーランナーまで、幅広いレベルのランナーのデータが蓄積されています。そのデータをもとにフィードバックを行なうので、どのレベルのランナーにも満足してもらえると思っています。そもそもどうやって走ったらいいのかわからないというビギナーの方であれば、データに基づいたコーチングやアドバイスが走るたびに受けられるというのは、大きなメリットだと感じてもらえるかもしれません」(猪股さん)

スマートシューズで走るということは、客観的に自分の走り方を理解することにもなり、それは新しいランニングの楽しみ方にもなる。

「そもそも自分がどうやって走っているのかを知ることができる、特別な場所に行かなくても日常的にデータ計測ができて、それに対するフィードバックがあるというはとても面白いことだと思います」(菊川さん)

「定量的に自分のランニングを理解して、パフォーマンスアップに繋げる。トップアスリートのようなトレーニング体験ができるというのは、新しい楽しさかなと思います」(猪股さん)

スマートシューズがランナーの明るい未来を作る!?

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クラウドファンディングサイト、MAKUAKEでのEVORIDE ORPHEの購入予約の締め切りは10月18日。予約者の手元に到着するのは11月末の予定となっている。EVORIDE ORPHEで走ることは、現在の自分のフォーム改善、走力向上に繋がるのはもちろんのこと、将来の自分、未来のランナーにも繋がる行為だ。

「ある意味では、EVORIDE ORPHEで多くのランナーが走り始めることが、このプロジェクトのスタートとも言えます。実際のフィールドでたくさんのランナーがデータを計測してフィードバックを得る。そのフィードバックをもとにフォームなどを改善してまた走る。これを繰り返すことは、今までアシックス スポーツ工学研究所が行なってきたテストとは違うもので、そこからアカデミックの次の理論が生まれたりもするのではないかと思います。また、データが集まってくることで、次のステップが見えてくるということもあるでしょう」(菊川さん)

EVORIDE ORPHEでたくさんのランナーが走ることが、新たな商品開発に活きる可能性は非常に高いのだ。

「アシックス スポーツ工学研究所には陸上トラックがあります。そこでは、たとえば30km走をして疲れてきたランナーの走り方がどう変わるかといった実験をすることがあります。そういったテストは、どうしても被験者の人数が限られるものですが、EVORIDE ORPHEが広がれば、レベル、年齢、天候、走るコースなどが異なった30km走中の足の動きのデータがたくさんとれることになります。もしかしたら、それによってシューズ設計の概念が変わることだってあるかもしれません。少なくとも新しい発見があるはずですし、研究者としてどんなデータが集まるのかにとても興味があります」(猪股さん)


また、データが蓄積していくことで、予見的な情報も提供できるようになるという。

「機械学習、AIの技術を使って、たとえばこういう走り方をすると、ここが痛くなりやすいということが分析できれば、それに近い走りをしている人に対して、アラートを出すといったことが可能になると思います」(猪股さん)

データが集まれば、今まで見えなかったことが見えてくると思います。自分に適したトレーニング方法を、蓄積されたデータの中から探し出すなんてこともできるのではないかと思います」(菊川さん)


スマートシューズを履いたランナーは、現在の自分を改善しながら、同時にランニングの未来を作ることになる。そして、多くの幅位広いレベルのランナーがスマートシューズを履くほど、その未来は面白いものになりそうだ。

TEXT by FUMIHITO KOUZU

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