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【特集】ファッションはどう変わる?軍地彩弓に聞く、バーチャル時代のデザインと表現、メディアと消費(中編)

新型コロナウイルスの感染拡大、それによる外出自粛の生活、そういった状況下で急速な盛り上がりをみせたバーチャルファッション。これまでFashionTechNewsでは、様々な事例を取り上げ、その背景にある想いに迫ってきた。一方で、こういった新たなテクノロジーが実現するサービスや体験は、「ファッション」にどんな影響を与えるのだろうか?

バーチャル時代の「ファッション」を多角的な観点から捉えるべく、ファッションクリエイティブディレクター・編集者の軍地彩弓さんをお迎えし、プロデュースされたキャラクター着せ替えアプリ「ポケコロ」KEITA MARUYAMAのコラボレーションについて、そして昨今のバーチャルファッションの盛り上がりについて、表現、教育、メディア、消費といった様々な視点からお話を伺いました。

軍地彩弓/ファッションクリエイティブディレクター・編集者

大学在学中から講談社の『Checkmate』でライターのキャリアをスタート。卒業と同時に『ViVi』でフリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力。2008年に現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブディレクターとして『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。2014年に自身の会社、株式会社gumi-gumiを設立。『Numéro TOKYO』のエディトリアルアドバイザー、ドラマ「ファーストクラス」のファッション監修、Netflixドラマ「Followers」のファッションスーパーバイザー、企業のコンサルティング、情報番組のコメンテーター等幅広く活躍。

バーチャルで強いファッションデザイナーとは?

ーー今回、KEITA MARUYAMAとのコラボレーションを進めた理由でもあると思うのですが、バーチャルにおいて、どういったデザイナーが強みや適性があるとお考えでしょうか?ファッションデザイナー自体に求められる役割も少しずつ変化するのでしょうか?

軍地:やはり、デザイナーが持つのは世界観。バーチャルだとキャラクターは、リアルな自分の身体そのものではないですよね、例えば自分の着たい服が、身長が足りないからこのドレスは着れないとか、太っちゃったからこのスカート履けないということが起きえない。夢を現実にしやすい世界だからこそ、リアルクローズよりも、ファンタジーを実現できるようなものが生き残れると思うんです。キャラクターデザインだったり、ファッションデザインとしての個性が強いものでないと勝てないですよね。

バーチャルでは、リアルクローズがデザイナーの名前を伴って入ってきたところで、なかなかわかりにくい。シンプルで有名なデザイナーでは、既存のノンブランドのデジタル上のファッションと差別化が難しいですね。となると、デジタル内でファッションデザイナーに求められる素質は、強い世界観を持ってらっしゃることが大きいと思います。やはり、クリエイティビティってそこにあるので。

今回、どのデザイナーさんに声をかけようと思ったときに、敬太さんを一番先に思いつきました。やはりどうしても、リアルクローズで作らざるをえなくなってきたのが、特に日本のファッションデザイナーの世界。リアルクローズだからこそ、たくさん売りやすいのだけども、だんだんと没個性化することもあると思います。そうみると、柄が特徴的だとか、アイデンティティが確立されていることが、バーチャル空間でもすごく強みとなりますね。あつ森でバレンティノなどがピックアップされたのもロゴが強いので、そういった強い世界観を持ったブランドしか生き残れないというのが、バーチャルの世界だなと思いました。

ーーすごく面白いですね。

軍地:リアルクローズというのは、服を着る人がフィジカルに似合うかどうか。例えば、会社に行かなきゃならないから服のフリルは無理と思っていたのが、バーチャルでは気にせずに使える。なんだったら、金魚が頭に乗って水が滴り落ちているとか、花弁のパラソルから花びらが舞うとか、それがファンタジーだけどリアルではあり得ないですよね。

それを考えるのは0から有を産む力で、一番尊敬されるものだと思うのだけれど、それを発揮できている人は実はそんなに多くはないんですよね。そうすると、もちろんデジタルで売ることだけが全てではないけれど、デジタル空間で必要な資質とフィジカルなモノを売る資質には少しズレがあるというのは、今回の経験から得た気づきです。

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デジタルファッションデザインという新たな領域

ーーデジタルファッション普及以降の世代のデザイナーでは、デザインにおける思想が変わってくる可能性もありそうですね。

軍地:逆に、デジタルでしか描けないデザイナーも出てくると思うのですよね。デジタルでは羽があるような夢のある服とか、もっと創造性豊かな奇抜な物を作る人たちが出てくるだろうと。それは、ボーカロイドが人間を超えてしまったというのと似てると思います。ボーカロイドの曲は限界がないので、息継ぎするところがなかったり、人間が歌えないものもあります。フィジカルの限界を超えることがボーカロイドはできるから、今までなかったような音源も作れるようになった。

これからは、そういったフィジカルを超える、身体的制限を超えたデザインがちゃんと評価されるようになると思います。少し前だと、例えばファッション系の専門学校でも奇抜な物を作ると結構馬鹿にされたりとか、あんまりにも個性的だと審査員の先生が大体、「こんなもの売れないね」という一言で終わっちゃう状況があったのだけれど、そういった0から有を生み出すクリエイティビティが、デジタルだったら存分に発揮してもらえる。そういう意味では全く生地を触らない、リアルな服を触らないファッションデザイナーというのも出てくると思います。

ーー私自身、セントマーチンズでデザインを勉強していたことがあるのですが、評価が良くないとき、コスチューミーと言われました。コスチュームという言葉が批判的に使われていたことを思うと、今のお話はとても共感します。

軍地:でも、セントマーチンズはファッション教育で、ある種、クリエイティビティを醸成するようなカリキュラムを組んでいますよね。美術館に行ったり、建築作らせたりとか、そこは日本のファッション教育と全く違うんですよね。日本のファッション教育はアパレル企業に就職するための学びをさせるから、パターンが描けるか、要はコスチューム的ではないリアルクローズをいかに作れるかということに高い評価がつく。アレクサンダー・マックイーンを生んだようなクリエイティブ教育の力は大きいと思うのだけど、そういう点ではバーチャルファッションの普及によって、本来のデザイナーの価値に戻れるんじゃないかなというのは少し思いますね。

ーーファッションデザイン教育の必要性も問われているのかもしれませんね。もしかしたら、このようにファッションデザイナーの役割がすごく拡大してくる時代になったら、ファッションデザインを学ぶ場の役割や、ファッションデザインだという括り自体が見直されると思うのですが。

軍地:専門学校のカリキュラムの相談も受けるのですが、ファッションデザインではなく、デジタルファッションデザインという1つの領域が生まれていると思います。いかにペンタブで物を描けるようになるか。それがアニメーターとどう違うかは分からないけど、一定のファッションのベースの教育を受けて描くデジタルファッションデザインと、それが全くないデザインはちょっと違うんですよね。それは例えばボディーパターンを学ぶことでもあり、そういうものからの延長にあるか否かは違いがあると思っています。

ポケコロにもすごく優秀なデザイナーさんがいて、逆にファッションの筋道で来ていない方が作り出すファンタジーももちろんあります。でも、そこにファッションの筋道が入ってくると、考え方が変わってくるんですよね。だから、ファッション教育の中にデジタルというジャンルが1つ増えるのがちょうどいい。こうじゃなきゃ何かができないという時代ではないので。ファッション教育だけがすべてではないし、ファッション教育を超えるものもあるし、ファッション教育があるからこそできるデザインもある、やり方は多種多様でいいと思っています。

音楽でも、米津玄師さんのように専門的な音楽教育受けずボカロでの作曲を通じてあれだけ素晴らしい曲をかけるようになるのだから、今は教育というのは色々なチャンスさえあれば良い。今までのような唯一の入り口としてのファッション専門学校というのは体をなさなくなりますが、みんなが好きな方向で、好きなルートでデザインするということになればいいと思います。

ーーこれからのファッションデザインでキーワードになるのは何でしょうか?

軍地:最も気になっているのは、身体性ですね。身体性をどう超越していくかという点で、今はまさにターニングポイントにあるのかな、と。実際には着ない服がある、ポケコロは三頭身ですからね。KEITAさんも普段は女性らしいくびれのある服を作っていたので、くびれが無いアバターにはどう対応すればいいか、最初は戸惑っていました。

常識あるからこそ、やれないことも出てくると思うので、要は自由ということです。だけれど、ファッションテックが生み出す意味にも、身体をどう理解して服を作るかという部分が反映されていくと思います。

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後編では、バーチャルファッションがリアルな消費に与える影響、「ファッション」の未来について伺っていきます。お楽しみに!

Photo Credit:須藤秀之

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