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西陣織の技術がIoTに:京都の老舗企業を時代の最先端に引き出した、魔法の糸と人。(後編)

1956年創業。西陣帯工場を祖業とする京都の老舗企業、ミツフジ。銀繊維を使用したスマートウェアを開発、独自技術で正確なバイタルデータを取得・解析している。今回、営業の最前線にいる女性社員3名と、プロダクトの指揮を取る若手役員に、ミツフジが西陣織の帯工場から最先端のIoTウェラブルカンパニーに事業転換した経緯と、現在販売されている製品、そして今後目指すべき方向について聞いた。

人類初、生活中のバイタルデータ計測を実現したミツフジ。その先に見据える未来とは?

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伊藤瑞喜さん 執行役員 プロダクト部長 戦略統括

着物産業の斜陽化に伴い、西陣織の帯が売れなくなり、先代の社長が目をつけたのが、銀めっきの糸。銀の特性を生かし、抗菌性の靴下や電磁波を防ぐエプロンなどを製品化していた。しかしそれも売れ行きが怪しくなり、会社が傾き始めたところに引き継いだのが、三代目の現社長、三寺歩だった。

――現社長の三寺歩さんが、ウェアラブル IoT カンパニーに事業変更したということですね?

銀の性質の一つに、「きれいに電気を通す」というところがあります。弊社が独自に研究開発した銀繊維が胸の部分に触れると、微弱な心臓の動きが取れます。一本一本見ていただくとわかるですが、ナイロンにきれいに銀めっきを施した何十本もの糸をより合わせて一本になっています。どこを切っても銀ですし、糸の顔をした金属といえます。これで抗菌靴下などを作っていたのですが、現社長が体調管理を目的に作業員向けの下着にこの糸を電極として使用しました。裏側に編み込まれた銀の糸が心臓から発する微弱な電流が取り、心拍などのバイタルデータが取れる仕組みです。

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このデータから独自のアルゴリズムで解析をし、体が現在どのような状態にあるかとか、どれくらいストレスを感じているのかなど数値化しています。私たちは正確なバイタルデータの採取と解析に注力し、これらのデータを生かしてどう社会課題の解決に繋げられるのかを真摯に取り組んでいます。

元々は繊維業を祖業としていますが、現在は「生体情報で人間の未知を編みとく」を企業理念とし、「バイタルデータを活用したウエラブルIoTのカンパニー」です。

糸が起こした人類初の奇跡

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――この部分がその銀めっきを使った繊維で、それ以外は普通の繊維なんですね?

はい。この繊維は200%伸びますので体にフィットしやすいのも利点です。着心地が良いだけでなく正確なバイタルデータを取ることにより、心臓のデータを通常の生活をしながら24時間計測できるようになりました。一見普通の糸に見えますが、銀の性質を持つので、きれいに電気を通します。電気抵抗が非常に低いので熱くなったりもしません。この導電性を生かして体の微弱な電流を取ることでで、心臓のデータが取れる仕組みです。

――それが、先ほどお話を伺った「iBRA」のベースとなる、「hamon(ハモン)」ですね?

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はい。最初の「hamon」は過酷な環境下で働く建設現場などの作業員の暑熱対策としてスタートし、2016年12月に発売しました。前田建設さんが従業員の見守りをする対策として最初に導入してくださいました。その後、着心地や機能などバージョンアップし続け、「iBra」をはじめ、現在発売されている弊社の製品になっています。

ーー西陣織の会社から、IoTカンパニーに事業転換した理由はなんでしょうか?

今振り返ってみると、前向きに事業転換したというよりも、繊維業の斜陽化に伴い売り上げが落ちていく中で、生き残る戦略の答えは「我々が既に持っている技術」つまり銀繊維にあるのではないかと気づいたのです。元々、ウェアラブルカンパニーになろうという意志があったわけではなく、お客様のお声を聞いて、ニーズにこたえていくと、糸だけ、ウェアだけでは解決できないことに気がつきました。またウェアラブルには糸、ウェアだけではなく、バイタルデータを飛ばすトランスミッタやデータを解析するアルゴリズムを必要とします。つまりいくつかの異なる分野が集約しないと確立できない市場でした。

ワンストップ_revised

私たちには糸があり、アパレルなども作っていたためウェアを作る技術もありました。また現社長がパナソニックに在籍していたこともあり、トランスミッタなどハードウエアもある程度作ることができました。また福島県に自社工場を持っているため今では自社生産も可能です。つまりこれにより「ワンストップ」でのサービスのご提供が可能となり、お客様の声に応える挑戦が始まりました。

ーーこの研究に関わる方はどういうバックグラウンドの方がいらっしゃるんでしょうか?

全体で社員数約60人の中、開発担当は約十名というところですが、バックグラウンドは通信のハードウェア作っていた人、メディカルのMR出身者もいれば、ソフトウェアの会社でアプリを開発していたエンジニア、繊維をひたすら研究してきた人材など、幅広い人材がいることが特徴であり、この多様性こそがワンストップでの対応を実現するキーとなっていると思います。

ーーこの先、会社としてどんな未来を考えていらっしゃいますか?

我々のコア技術は、バイタルデータとアルゴリズムです。我々の持つ技術を用いて丁寧にもの作りをした結果、正確な心臓のデータを取り、正確な数字を出すことで、今まで感覚に頼っていたストレスなどに気付くことができるようになります。また、非常に難しいですが予防医療の分野にも挑戦していきたいで思っています。

取得して分析したバイタルデータを組み合わせて、社会課題の解決や、ひとりでも多くの方のお役に立つために、地道に研究開発をつづけていきたいと思っています。

ーーそれは主に医療の分野で、という意味なんでしょうか?

もちろん医療も大事なのですが、今我々の事業で一番多く使われているのは工事現場です。毎年大きな社会課題となっている過酷な環境下で働く方の暑熱対策として使われています。

嘘がつけない体からのデータは、指標になる

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ーー就活にも使えそうですね。A社とB社と迷っていて、職場のストレス値で選ぶとか。

世の中がこのデータをどう使っていくかについては、その世の中の流れを捉えていかないといけないと思いますが、大きな指標になるかもしれませんね。ひと昔前は、健康経営、健康指標など、就職活動の時に使われるものではなかったですが、今それが大事な指標になってきています。

例えばZOZOテクノロジーズさんとミツフジのストレスの平均値を取ってみれば、どちらが働きやすい職場なのかがわかってしまう可能性があります。

現在、こういう指標を取るのはアンケートが多いと思いますが、これが全て真実かというと、そうとは言えない部分があると思います。しかし、体から取得した定量的なデータは、指標になり、客観的な判断に必要だと改めて感じています。

ーー他社との協業について。どういうようなきっかけで始まることが多いんでしょうか?

割合でいうと、圧倒的にお声がけいただくケースが多いですね。それには二つ理由があります。

一つは、「求められている」ということです。

僕らの技術は非常にシンプルです。いろいろ積み重ねはありますが、正確なバイタルデータが取れるということ。ここが非常にわかりやすくて使いやすいので、「求められている」のだと思います。

そしてもう一つは、「求めている」です。

例えば、従来の事業と何かを掛け合わせて自社の変革をしたい企業様が新しい付加価値を求めて、僕らに声をかけていただいていると思います。

例えばクラボウさん(倉敷紡績株式会社)とは、暑熱環境下における作業現場のリスク管理をIoTで支援するシステムについて協業しています。外部から見ると「競合では?」「敵では?」と思われるかもしれませんが、我々は社会課題の解決を目指すことを大事にしておりますので特に気にしておりません。

次のフェイズは、ウェア以外の可能性も

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一般的にウエアラブルは着るだけでなく、バンドタイプのデバイスも含まれます。僕たちは様々な可能性を探っています。眠気とか熱中症に関わる深部体温の変化がなぜわかるかというと、専門的になりますが、心拍変動解析という技術を使っています。R波と呼ばれる間隔を見ているのですが、同じ人間でも、心臓のドッキンドッキンの一番高い部分の幅(R波)が揺らぐのですね。

これを見ることで、「この人はもうちょっとで体調変化が起きそうだ」、という特徴的な動きがわかるので、それを捉えるという技術です。

ーーこの技術とGPSを組み合わせたら、どこに具合の悪い人がいるか、点でわかるようになるかもしれませんね。

技術的に可能です。ユースケースは、ご一緒させていただく企業様と、「社会に役立つサービスを作り上げていきましょう」「市場を広げていきましょう」という「共創」の領域になります。

このところエンドユーザーにも、ウェアラブル機器やバイタルデータがどういう風に使えるかなど、認知や理解が広がっています。。今後、エンドユーザーとサプライヤーの理解のギャップは少なくなり、 活用方法をエンドユーザーが発見するというケースが多くなってくることを期待しています。

ーーベースに確固たる技術があるのがいいですよね?

常に、もしかしたら明日にでも、これを超える技術が発明されてしまうかもしれない」という危機感を持って接しています。導電性や綺麗にデータが取れるフィルムとかジェルなどは世の中にありますので、今ある技術にあぐらをかいているつもりはありません。

そういう意味で、一番大事なのは繊維ではなく、正確なデータが取れる技術とそれらデータをどう生かすか、つまり月並みではありますが、「技術を世の中の為に役立てようという信念」とそれを「支える人財」こそが、我々が一番大事にしていることです。

ーーありがとうございました。

西陣織の帯から始まり、糸に箔を巻く技術を独自に研究し銀めっき繊維を生み出し、抗菌性の靴下を経て、IoTウェアラブルメーカーへ。一見、脈絡がないように思えるこの連鎖は、伝統に裏打ちされた技術とIT技術をバックグランドに持つ現社長の融合で生まれ、そして課題解決を志す社長の思いを支える従業員たちにあった。近い将来、バイタルデータは皆が常に採取、記録する時代になるかもしれない。そうなったら人はどうなるのか、想像がふくらんだ。


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